"Power Law"の日本語訳。一般的には、ある観測量がパラメータのべき乗に比例することを指す。
もっとも典型的でよく研究されている例としては相転移現象があり、比熱や帯磁率などが特異的な温度に接近するにつれて
という形で発散し、ちょうど
においては距離r 離れた場所の物理量の相関関数が
という形で減衰することが知られている。
特に「べき分布」は最近流行のキーワードで、ある量が観察される確率がその大きさのべき乗に比例することを指し、様々な物理現象やネットワークにみられる。ウェブでいえば、ノード(ページ)の持つリンクの数の-3乗程度に、その数のリンクを持つノードの出現頻度が比例するという法則。この法則の記述でいえば、リンクの数が2、3程度のノード(ページ)は無数にあるが、100以上のリンク、1000以上のリンクとなっていくにしたがって頻度が極端に減少していくことになる。
ネットワークの数学的な解析からいえば、ランダムネットワーク、スモールワールドネットワーク、スケールフリーネットワークの3種類に類型されているうちの、スケールフリーネットワークで随伴的に見出されることが証明されている。
冪分布の一番の特徴はこのように特徴的なスケールを持たない、ということになる。たとえばある関数 y=f(x) のグラフを横に a 倍拡大すると y=f(x/a) となるが、これを今度は縦に適当にスケールしてもとのグラフと重ねることができるか、ということを考える。f(x) = c・f(x/a) という条件式になるが、これを充たすことができるのは冪関数 f(x) = のみであることが分かる*1。n は非整数でもよい。実際に様々な現象で非整数の指数が観測されており、この値を理論的に説明するのが相転移などを扱う統計力学の中心テーマの一つとなっている。スケール変換した場合の効果をパラメータの変化に置き換える繰り込み理論によってこの研究は大きく進展した。
未解決の問題として、たとえば乱流の場合はエネルギーが長さスケールの-5/3 乗に比例することが知られているが、なぜこのような指数が出てくるのか未だに明確な理論的説明はない。また動物の代謝熱は体重の 3/4 乗に比例することが知られているが、これもその起原は未解決である。
最近は経済、バイオ、インターネットなど様々な分野で、特に多数の要素がたがいに影響しあって微妙な均衡を保っていると考えられる場合に冪分布が見いだされるという研究が非常に流行っている。冪であることを示すには両対数グラフを書いた時に直線になればよいが、どんなグラフでも横軸が1、2桁の幅しかなければ直線に見えなくもないので注意が必要である。
<参照>
*1:縦横の拡大は両対数プロットでは上下左右への平行移動に対応する。平行移動して元のグラフと重なるのは直線のみだが、両対数で直線のグラフは冪関数である