ケリー・ライカートの映画には、他者へのまなざしが丁重に注がれている印象をいつも受ける。現実の日常生活の中で、誰もが意識的にしろ無意識的にしろ様々な他者に視線を注いたり、一瞥したりするように、ライカートの映画の登場人物たちもストーリーに則った流れの中で自然なふるまいのひとつとして他者に視線を向けている。だが、そうした視線にはささやかなディテールでありながらも、ストーリーの流れに収斂することに抗うような、人間としての根源的なエッセンスがひっそりとだが確実に内在し、それに気づいた者だけがその繊細な視線とともに後に続くストーリーをなぞっていける、そのようにライカートから観る者は試されているのかもしれな…