フィッツジェラルド

Amazonより 本作は、前作『バビロンに帰る』が発表されてから5か月後に執筆されました。村上春樹は、この作品について『バビロンに帰る』のような文学的深みを欠いていて「ちょっともったいないな」と語り、あとがきで詳細な分析を行っています。しかし、こうした適切な批評が生前のフィッツジェラルドにもたらされることはありませんでした。その作品群は文学史において重要な分析対象となるのは、彼の死後からです。 『あなたは彼のことを知らないのよ』 ジュリアは美貌の持ち主のラグランドに心を奪われます。しかし、そのラグランドはパリでの放蕩や飲酒癖のうわさが絶えない悪名高い人物でもありました。友人のフィルはジュリアに…

Amazonより 本作は1931年に執筆された作品で、世界恐慌後のパリを舞台にしています。『バビロン』という言葉には「堕落した都市」という意味があり、主人公チャーリーの過去の放蕩生活と、それによって生じた現在の困難を暗示しています。失ったものを取り戻そうとする彼の姿には、フィッツジェラルド自身の体験が反映されていて、本作は彼の代表的な短編の一つとされます。 『僕を信頼していただけるはずだ』 かつて贅沢で無軌道な生活を送っていたチャーリーは、その代償として妻を失い、娘オノリアとも離ればなれの生活を余儀なくされます。彼は自分が変わったことを証明し、娘を取り戻そうとしますが、オノリアの後見人であるマ…

やっと秋らしくなってきたと思ったら、もう目の前には冬の気配が迫っている。最近の異常気象の所為なのか、それとも私が歳を取っただけなのか、近頃は秋というものへの感度が低い。暑い夏が終わると、気付けば寒い冬という感覚だ。昔の歌集なんかを読んでいると、自然を中心においた生活習慣が身に染みて、少々羨ましく感じるこの頃である。しかし当時は当時でやはり何かと苦労はあっただろうから、結局のところ私は現代に生まれ、現代で生きていくしかないのだと、我が身を再確認するばかりである。 月ベストコーナーでは、該当月に読んだ本の中で最も読んでほしい一冊を取り上げ、そこから派生した作品を紹介する。選書の根拠は全くもって独断…

Amazonより 本作は、フィッツジェラルドが初めて大恐慌を題材にした作品です。舞台はパリ。そこでアメリカ人たちは最後の狂乱の時を過ごしています。「狂騒の20年代」から「暗黒の30年代」へと移り変わる時代のなかで、新たな兆しを見せ始めた作品をご紹介します。 『もう一度僕に』 パリで精彩を欠いた生活を送っていたマイケルは、かつての恋人キャロラインが結婚するという知らせを受け、彼女への想いが再燃します。そんな折、彼に祖父から巨額の遺産が舞い込む一方で、キャロラインの婚約者ラザフォードは株の暴落で全財産を失います。結婚式が近づく中、マイケルは最後の望みを賭けてキャロラインに詰め寄りました。 「僕がど…

Ｆ・スコット・フィッツジェラルドは失われた世代を代表する黄金の作家だった。 彼の代表作である「グレート・ギャツビー」は世代を超えて愛され、何度も映画化されている。その名はある種のダンディズムの象徴とされ、日本では男性整髪料の名として広く知られている。 ギャツビーは哀れなほど愛に生きた男だった。その絢爛豪華な日々と、それとは対照的な寂しい最期を、私はフィッツジェラルド本人に重ねざるを得ない（或いはフィッツジェラルドの死を、ギャツビーに重ねると言うべきか）。 フィッツジェラルドの好んだ死というのは、どうしようもなく致命的で、自己破壊的で、ロマンチックだった。どの本で読んだのだったか、彼を捉えた最期…

Amazonより 『ジェリービーン』とは、第一次世界大戦後のアメリカ南部で、仕事もせずにだらだらと日々を過ごす若者たちを指すスラングです。いわゆる「狂騒の20年代」と呼ばれるこの時代は、経済の繁栄と社会の自由化が進む一方で、道徳の混乱や目標を見失った若者が増えていた時期でもあります。本作は、そうした当時の世相を映し出しているとされます。 『ここにいたの、ジェリービーン？』 物語の主人公ジムは、地元の小さな町で「ジェリービーン」と呼ばれ、ギャンブルや社交クラブに出入りしながら、退屈な毎日を送っていました。一方、ヒロインのナンシーは社交的で快活、そして町の男性たちの憧れの的でもある魅力的な女性です…

Amazonより 本作には、主人公の男性が妻と娘を侮辱されて、近隣住人と殴り合う激しい場面が描かれています。この作品が発表された1925年、フィッツジェラルドはブロードウェイでの成功を目指しながら失敗し、多額の借金を抱えていました。この喧嘩のシーンには、妻と幼い娘を抱えながら、困難を乗り越えようとする作者自身の心情も滲みます。 『わんわんがほしい』 主人公のジョンは、2歳の娘イードの世話に振り回され、妻イーディスとの時間を持てないことを常々不満に思っていました。娘の成長を見守りながら、そのやんちゃぶりに腹を立てては、自分の未熟さを反省することの繰り返し。そんな中、幼児たちを主役とするパーティー…