亡《な》き人を恋ふる袂《たもと》のほどなきに 荒れたる軒の雫《しづく》さへ添ふ うたた寝した時の夢に 亡き父宮をみて、 名残の思いにとらわれる末摘花の姫君 (by 末摘花) 〜亡き父上を恋い慕って泣く涙で 袂の乾く間もないのに 荒れた軒の雨水までが降りかかる 【第15帖 蓬生 よもぎう】 末摘花の君は物悩ましい初夏の日に、 その昼間うたた寝をした時の夢に父宮を見て、 さめてからも名残《なごり》の思いにとらわれて、 悲しみながら雨の洩《も》って濡れた廂《ひさし》の 室の端のほうを拭《ふ》かせたり 部屋の中を片づけさせたりなどして、 平生にも似ず歌を思ってみたのである。 亡《な》き人を恋ふる袂《た…