岸に先手をきっておどりあがった足利又太郎の装立ちは、 赤革縅の鎧、黄金作りの太刀、 二十四本背に差したるは切斑《きりふ》の矢、 重籐《しげとう》の弓を小脇にかいこんで、 乗る馬は連銭|葦毛《あしげ》、 鐙《あぶみ》をふんばって声を轟《とどろ》かせた。 「昔、朝敵|将門《まさかど》を亡ぼした 俵藤太秀郷《たわらとうたひでさと》十代の後胤、 下野国の住人足利太郎俊綱の子又太郎忠綱、 生来十七歳のもの、 かく無位無官の者が宮に弓を引き奉るは恐れ多いことなれど、 弓矢の冥加《みょうが》平家の上に とどまっているものと存ずる。 三位入道の御方のうち、われと思わん人は寄りあい給え、 見参せん」 こう名乗り…