暇乞いは、先の夜にすんでいる。 それに伯父の憲房も、探題の正月行事でいなかった。 ふたりは一睡の後、湯漬など食べ、 旅支度にかかっていた。 すると、侍部屋の廊のかべを、 サラ、サラ、と撫でつつ人の近づいてくる気配がした。 そこの遣戸《やりど》をスウと開けて、 「おじ様、お名残り惜しゅうございます。 もう御帰国なされますか」 と、それへ坐り込んだ小法師がある。 まだ十一、二歳でしかあるまいに、 いたましいことに、盲《めしい》であった。 この盲少年は、母方の人の子なので、 又太郎とは従弟にあたる者だが、 父は地方の乱で早くに戦場で最期をとげ、 子はこんな不具だったので、いかなる宿業ぞと、 母なるひ…