とくに銘柄にこだわる派ではない。酒ならナンデモイイ派である。だからといって、美味いかそれほどでもないかを利き分けていないわけじゃない。 酒を進物とする場合のみ利用する百貨店の酒類コーナーがある。別に相談できる酒屋も一軒ある。蔵元による触込みには眼を通し、店員のお奨めにも耳を傾けはするが、最後は自分で決断する。現今の流行や評判と私の好みとのあいだに、若干のズレを感じているからだ。 酒は酒臭いのが好い、女が女臭いほど魅力的なのと同じだというのが、遊び惚けていた時分に体得した動かぬ信念である。「今でも、これを選ばれるお客さまが、ごくたまにいらっしゃるんですよねえ」などと、古手の店員からおだてられるこ…