慶長三年七月二十一日(西暦1598年8月22日) 開封府 黄河のほとりに広がる開封は、かつて北宋の『東京』として栄えた都だった。 三重の城壁に囲まれた街並みは、長安のような碁盤目状ではなく、複雑に入り組んだ路地と水路が張り巡らされている。 城門をくぐると、避難民と物資を運ぶ荷車が入り乱れていた。 運河沿いには、江南からの米や塩を積んだ船が次々と到着し、水夫たちが荷揚げに追われている。「ここが新しい都か……」 万暦帝は仮宮殿の窓辺に立ち、眼下に広がる街並みを見下ろしていた。 北京から百九十里(約763km)を走り抜けてきた疲れからか、万暦帝は30代半ばであるが、実際よりかなり老けて見える。「陛下…