日本人には、桜を見ると思い出す作品が、一つや二つあるだろう。『古今和歌集』の「世の中にたへて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」(在原業平)といった和歌に始まり、そのほか、物語を連想する人もいるだろう。 その中に宝塚歌劇団月組の『桜嵐記』がある。公演が終わった一年半経った今でも思い出深い作品として脳裏に刻まれている。トップスターコンビの珠城りょう、美園さくらの退団公演に加え、結果として作・演出を手がけた上田久美子の、最後の宝塚作品となった。盛りだくさんの「最後」がつまったこの作品の、物語の「最後」はどうなっているだろうか。今回は物語のラストの後村上天皇の言葉について考えたい。 主人公楠木正行…