「あいりちゃんって好きな漫画家、いるの?」 高校生のわたしにとってかなり難しい質問を投げたのは、北海道出身の、わたしよりひとつ歳上のギャルだった。わたしの通っていた高校は夜間の定時制で、クラスにはいろんな年齢の人、いろんな性格の人、いろんな事情を持った人が通っていて、ギャルもその一人だった。当時、今よりもうんとひねくれていたわたしは、なぜギャルがそんなことを聞いてくるのか一瞬分からずに身構えたのだが、単にわたしが図書室で借りたつげ義春の『紅い花』の文庫本を読んでいたからに過ぎなかった。しかし、『紅い花』の文庫本の表紙を見ただけで、これが漫画だ、と分かるということは、とわたしが返事をするのも忘れ…