夏目漱石の代表作のひとつ。初出:明治39年9月「新小説」
「草枕」は、「坊っちゃん」とならんで、漱石初期の代表作品である。一週間の短時日で書き上げられたものという。「こんな小説は天地開闢以来類のないものです」といい、「珍という事においては珍だろう」という漱石は、ある自信を持っていたに違いない。この作品は美学の書といってもよく、主人公の画家の思惟と行動を通じて、作者の美意識や詩観を説明したもので、小説的な構成はほとんどない。
東洋趣味のあふれた作品である。自然に虚偽がないように、人間が純粋なら虚偽はない。利欲煩悩がはたらいて、虚偽が生まれる。漱石はそう考え、芸術論の立場から、美と醜にわけたのである。そして、詩や芸術は、形式的なものでなく、人間が心がけ次第で得られるということを説くのである。(『読書への招待』(旺文社)より)
amazon.-内容(「BOOK」データベースより)
山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される。―美しい春の情景が美しい那美さんをめぐって展開され、非人情の世界より帰るのを忘れさせる。「唯一種の感じ美しい感じが読者の頭に残ればよい」という意図で書かれた漱石のロマンティシズムの極致を示す名篇。明治39年作。