15年前、主人公の「わたし」は国際子ども図書館を取材した帰り、上野公園の噴水の見えるベンチで「喜和子」さんと出会う。当時はまだ小説家ではなくフリーライターだったのに、つい「物書きです」と言ってしまったことから、喜和子さんに頼まれて上野の図書館について小説を書くことになった。 上野の図書館、つまり現在の国際子ども図書館は、かつて帝国図書館と呼ばれていた。西洋のビブリオテーキを理想に掲げる明治維新政府が壮大な構想を練り、文庫から東京書籍館、そして東京府書籍(しょじゃく)館となり、さらにそれが東京図書館となって、明治39年には帝国図書館と名称が変わる。 そんな図書館の歴史を織り込みながら、「わたし」…