森鴎外の小説。初出:大正5年1月「中央公論」
鴎外はこの作品の材料を、「翁草」という随筆集から得たと、「高瀬舟縁起」の中で書いている。そこに二つの問題が含まれていたことが、執筆の動機になった。第一に、人間の欲望の問題で、罪人喜助の無欲さに心をひかれたのである。第二は安楽死の問題であり、死に直面して苦しんでいる人間は、むしろ安楽に死なせるべきではないかという疑問だった。
そして、第一の問題は日ごろ鴎外自身の反省していることに関係し、第二の問題は子どもが重病にかかった際に、実際に考えていたことが、「高瀬舟」という作品に具体化されたわけである。
鴎外は問題を提出しただけで解決は出さない。しかしこのヒューマニズムにあふれた作品は、読む者の胸に迫る力を持っている。