動物の体細胞の分化の記憶を消去し、全能性に近い性質を持つ細胞へと初期化された細胞。
理化学研究所が2014年1月に発表し命名。「STAP」とは初期化現象を示す「刺激惹起性多能性獲得(stimulus triggered acquisition of pluripotency)」を意味する。これは遺伝子導入により多能性を獲得する「iPS細胞」の樹立経路とは全く異質のものである。
それまで動物細胞の自発的な初期化は起きないとされていたが、酸性溶液による細胞への刺激や、細いガラス管に細胞を多数回通すなどの物理的な刺激、細胞膜に穴をあける化学的刺激といった、細胞外刺激による細胞ストレスが初期化を引き起こすことが実証された。今後は再生医学や、老化・がん・免疫など研究への応用が研究される。
2014年3月6日、作製に関する実験手技解説を「Nature protocol exchange」で発表*1。
STAP細胞に関する論文では、さまざまな組織になる万能細胞を簡単な手法で作れると発表されたが、論文が発表された後、世界中の研究者がその再現を試みたにもかかわらず、小保方晴子研究ユニットリーダーのチーム以外に誰も再現できなかったこと、論文で別々の実験結果とする画像が酷似していること、画像データの加工疑惑、文章の無断引用の疑いが相次いで指摘されたことなどを受けて、理化学研究所を調査委員会を立ち上げ、事実関係についての調査を行った。
2014年3月14日、理化学研究所の野依良治理事長らが都内で記者会見し、論文の画像は小保方晴子研究ユニットリーダーの3年前の博士論文と同じと言わざるを得ないとする中間報告をまとめ、公表した。このなかで、調査委員会は論文の6点を調査、うち2点はデータの取り扱いに不適切な点はあったが不正に当たらないとし、残り4点は継続して調査が必要とした。ただし、研究チームの複数のメンバーは、STAP細胞そのものについては、作製できたとする主張を変えていない。
また、併せて研究の中心となった小保方晴子研究ユニットリーダーと理研発生・再生科学総合研究センターの笹井芳樹副センター長ら共著者は、論文取り下げの意向と「心からおわびする」との謝罪を記した文書を発表した。これにより、STAP細胞の成果は、白紙に戻る可能性が高くなった。
2014年7月2日、英科学誌ネイチャーにより、STAP細胞の論文2本を撤回したと発表*2。
【共著者のコメント】
STAP現象に関する私共の論文の不備について多方面から様々なご指摘を頂いていることを真摯に受け止め、そのことが混乱をもたらしていることについて心よりお詫び申し上げます。本件に関して、理化学研究所で行われている調査に、今後とも迅速に応じて参る所存です。また、論文内に確認した複数の不適切または不正確な点に関しては、速やかにNatureへ報告して参りましたが論文にこうした不備が見つかったことはその信頼性を損ねるものと著者として重く受け止め、今回の論文を取り下げる可能性についても所外の共著者と連絡をとり検討しております。今回は、経過中の調査の中間報告がなされる場であることから、書面でのコメントになりますが、適切な時期に改めて説明する機会を設け、誠意をもって対応してまいります。
2014年3月14日
小保方晴子、笹井芳樹、丹羽仁史
独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター
2014年4月9日に小保方晴子が実施した記者会見に関して、2014年4月14日、代理人の三木秀夫弁護士を通じて報道陣に文書を配布した。その内容は以下の通り。
1 STAP細胞の存在について
(1)200回以上成功したと述べた点
私は、STAP細胞作製の実験を毎日のように行い、しかも1日に複数回行うこともありました。STAP細胞の作製手順は、<1>マウスから細胞を取り出して、<2>いろいろなストレスを与え(酸や物理的刺激など)、<3>1週間程度培養します。この作業のうち、<1><2>の作業は、それ自体にそれほどの時間はかからず、毎日のように行って並行して培養をしていました。培養後に、多能性マーカーが陽性であることを確認してSTAP細胞が作製できたことを確認していました。このようにして作製されたSTAP細胞の幹細胞性については、培養系での分化実験、テラトーマ(腫瘍)実験やキメラマウス(複数の個体の細胞がまだらに混じったマウス)の実験などにより複数回再現性を確認しています。
STAP細胞の研究が開始されたのは5年ほど前ですが、2011年4月には、論文に中心となる方法として記載した酸を用いてSTAP細胞ができることを確認していました。その後、2011年6月から9月ごろには、リンパ球のみならず皮膚や筋肉や肺や脳や脂肪などいろいろな細胞について、酸性溶液を含むさまざまなストレス条件を用いてSTAP細胞の作製を試みました。この間だけで100回以上は作製していました。
そして、2011年9月以降は、脾臓由来のリンパ球細胞(CD45+)を酸性溶液で刺激を与えて、STAP細胞を作製する実験を繰り返していました。このSTAP細胞を用いて、遺伝子の解析や分化実験やテラトーマの実験などを行うので、たくさんのSTAP細胞が必要になります。この方法で作ったものだけでも100回以上は、STAP細胞を作製しています。また、今回発表した論文には合わせて80種類以上の図表が掲載されており、それぞれに複数回の予備実験が必要であったことから、STAP細胞は日々培養され解析されていました。このことから、会見の場で200回と述べました。(2)第三者によって成功している点
迷惑がかかってはいけないので、私の判断だけで、名前を公表することはできません。成功した人の存在は、理研も認識しておられるはずです。2 STAP細胞作製レシピの公表について
STAP細胞を作る各ステップに細かな技術的な注意事項があるので一言でこつのようなものを表現することは難しいのですが、再現実験を試みてくださっている方が、失敗しているステップについて、具体的にポイントをお教えすることは、私の体調が回復し環境さえ整えば、積極的に協力したいと考えております。状況が許されるならば他の方がどのステップで問題が生じているかの情報を整理して、現在発表されている実験手順に具体的なポイントを順次加筆していくことにも積極的に取り組んでいきたいと考えております。
また、現在開発中の効率の良いSTAP細胞作製の酸処理溶液のレシピや実験手順につきましては、所属機関の知的財産であることや特許等の事情もあり、現時点では私個人からすべてを公表できないことをご理解いただきたく存じます。今の私の置かれている立場では難しい状況ですが、状況が許されるならば実験を早く再開して、言葉では伝えにくいこつ等がわかりやすいように、映像や画像等を盛り込んだ実験手順としてできるだけ近い将来に公開していくことに努力していきたいと考えております。3 4月12日朝刊での新聞記事について
同日、一部新聞の朝刊において「STAP論文新疑惑」と題する記事が掲載されましたが、事実確認を怠った誤った記事であり、大きな誤解を招くものであって、許容できるものではありません。この説明は同日中に代理人を通じて同新聞社にお伝えしています。
(1)雌のSTAP幹細胞が作製されており、現在、理研に保存されております。したがって、雄の幹細胞しかないというのは、事実と異なります。
(2)STAP幹細胞は、少なくとも10株は現存しております。それらはすでに理研に提出しており、理研で保管されています。そのうち、若山先生(若山照彦山梨大教授)が雄か雌かを確かめたのは8株だけです。それらは、すべて雄でした。若山先生が調べなかったSTAP幹細胞について、第三者機関に解析を依頼し染色体を調べたところ、そこには、雌のSTAP幹細胞の株も含まれていました。記事に書かれている実験は、この雌のSTAP幹細胞を使って行われたものです。4 STAP幹細胞のマウス系統の記事について
2013年3月までは、私は、神戸理研の若山研究室に所属していました。ですから、マウスの受け渡しというのも、隔地者間でやりとりをしたのではなく、一つの研究室内での話です。この点、誤解のないようお願いします。
STAP幹細胞は、STAP細胞を長期培養した後に得られるものです。
長期培養を行ったのも保存を行ったのも若山先生ですので、その間に何が起こったのかは、私にはわかりません。現在あるSTAP幹細胞は、すべて若山先生が樹立されたものです。若山先生のご理解と異なる結果を得たことの原因が、どうしてか、私の作為的な行為によるもののように報道されていることは残念でなりません。追記
4月9日の会見は「不服申し立て」に関する記者会見であり、準備期間も不十分で、しかも公開で時間も限られた場であったことから、STAP細胞の存在や科学的な意義についての説明を十分にすることができませんでした。しかしこのような事情をご理解いただけず、説明がなかったとして批判をされる方がおられることを悲しく思っております。理研や調査委員会のご指示や進行具合にもよりますし、私の体調の問題もあるので確かなお約束はできませんが、真摯(しんし)な姿勢で詳しく聞いて理解してくださる方がいらっしゃるなら、体調が戻り次第、できるだけ具体的なサンプルや写真などを提示しながらの科学的な説明や質問にじっくりお答えする機会があればありがたく存じます。(会見形式では到底無理ですので、たぶん数名限定での説明になると思いますが…。)。