郵便局のサイトにこういう表現があった。
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「よく行く郵便局や1番近いポストがすぐにわかります」
これはまずい。企業の公式サイトが「一番」を「1番」と誤記してしまっている。漢数字で書くべきところを算用数字で表記するのは以前から見かけてはいたが、ここ数年で見かける頻度が急に増えたように感じる。
数字を含む表現を算用数字で表記できるか迷ったら、数字をたとえば100や1,000にしても成立するか考えるとよい。「1番いい」と書けるのは「100番いい」「1,000番いい」と表現できる場合のみである。しかしこういった表現はないので、漢数字の「一番いい」が正しい表記とわかる。「1番目にいい」の場合、「100番目にいい」「1,000番目にいい」とも表現できるので、算用数字で書いてもよい。
と説明したところで、「一番いい」を「1番いい」と書くムーブメントは収まらないだろう。みんなが「1番いい」と書いている中、自分だけが書かない理由はない。
以前こんな記事を書いた。えっもう10年前か。
「知ら無い」「見無い」といった間違った表記を見かけ、ムズムズして書いた。これらも「1番いい」と同じく間違った表記だけれど、やはり普及を止めることはできないだろう。きちんと校正された文章を読む機会がますます減ってきているからだ。
ネット以前の時代、読む文章といえば新聞や雑誌、小説やエッセイなど、第三者がチェック済みの活字原稿が多かった。手紙のほか仕事や宿題で書くレポートなどは校正を通らないが、活字媒体に比べると目にする量はずっと少ない。ふだん周囲で目にする文章がきちんとしていればそのたびに補正されて、自分が書く文章もそうめちゃくちゃにはならなかった。
インターネットが出てくると、電子メールや個人サイトなど、校正なしで流通する文章の割合が増えていく。誤変換や誤った表現、使い方を間違えている慣用句、活字媒体ではまず使われないけれど変換できるので漢字にしてしまう表現がそのままほかの人の目に触れるようになってきた。
そして今のSNS時代、誰かがさっと書いてそのまま投稿された文章が大量に流通している。ネット以前は考えられなかったことだが、校正された文章をまったく読まない日も増えているのではないか。この状況では、間違った表現を誰かが使えばほかの誰かがすぐ使うことになる。正しくない表現や表記が普及する速度がとても上がっており、これにブレーキをかけるのはとても難しくなっている。
どうすればいいのだろうか。個人的にはみんなもっと本を読んでほしい。編集者がついた作品ならマンガでもいい。NHKや新聞のニュースサイトもいい。手間をかけて、複数の人のチェックを通った日本語にもっと触れるようにしてほしい。今はなかなか難しいかもしれないけれど。
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(「活字媒体ではまず使われないけれど変換できるので漢字にしてしまう表現」の例。「確り」「感ける」「熱り」とか読めます?)