NOVA 3

「NOVA 1」のようなジャンルSF中心のアンソロジー。読書会の課題本に選んでよかったです。傑作。読書会では10点満点で点数をつけて4人で選評したのですが、一番高得点を獲得したのは長谷敏司「東山屋敷の人々」(32/40)。不老不死のテクノロジーによって家というシステムがどのように変容するかが評価されました。〈誰得賞〉を授与したいと思います。ちなみに最低点を獲得したのは瀬名秀明「希望」(16/40)。難解な構成と登場人物の行動の意味不明さが嫌われたようです。これには〈マジで誰が得するんだよこれ賞〉を授与します。以下ネタバレありで解説。

とり・みき「SF大将 特別編 万物理論[完全版]」 5点

SFファン向けのサービス満載。ただ内輪ネタに終始している漫画なので、元ネタがわからないとおいてけぼりにされるでしょう。個人的にはエンタメ至上主義の一派・SciFi族が出てきたところがツボでした。土偶のようなフォルムの彼らは、明らかに梅原克文「カムナビ」の表紙が元ネタです。もともと梅原克文は「SFというラベルを廃止してサイファイにしよう。アメリカではサイファイというラベルで流通してるし、SFには難解なイメージがついてしまったから、もう終わコンなんだ」と主張した人です。しかしその梅原克文の作品数はたったの4つで、もう誰もサイファイなんて言わなくなりました。寂しいものです。
ちなみに難解なSFの典型例・イーガン「万物理論」は傑作なので是非読んでみてください。難解だっていいじゃない。SFだもの。

小川一水「ろーどそうるず」 7点

バイクに内蔵された人工知能と本社の工場で走っている人工知能の対話。これはなかなかよかったです。バイクのAIのほうはべらんめえ調で運転状況について熱く語るのですが、人間側にはこの「語り」を翻訳する能力がないので、ただのノイズとして処理されてます。機械の視点から見れば立派な情報でも、その言語を共有していない人間にとってはただのノイズでしかないってのは面白いですね。この文章を見ているあなたの端末もそうした隠された意思を発しているかもしれないと考えると、胸が熱くなりませんか。
ちなみに、この機械の「語り」はラストで人間に伝わったのだと解釈する人もいました。

森岡浩之「想い出の家」 4点

ラブプラス。一言で言えばそうなります。発想は面白いんですが、キャラの挙動が淡々としすぎていて物足りないです。たとえばこのネタで筒井康隆が書いたら、もっとドタバタしていて楽しめたと思う。

長谷敏司「東山屋敷の人々」 10点

老化を止めるテクノロジーを利用している家長と、その親族たちの対立が生々しくていいです。ぶっちゃけ老人がいつまでも死なずに偉そうにしてたら、ちょっと気まずいじゃないですか。この小説ではそうした、老いを良しとする人たちの常識と、死ぬなんてごめんだという利己的な個人の衝突が実によく描かれています。僕も死にたくない人間なんで、身につまされる思いで読みました。未来のテクノロジーと家のシステムが見事に調和した「サマーウォーズ」の真逆をいく、シニカルな面白さがあります。

円城塔「犀が通る」 5点

内容なさすぎワロタ。でも文体はいいよねということで意見は一致しました。

浅暮三文ギリシア小文字の誕生」 6点

ゼウスがそう告げたとき、人々はやっと新たな行為が始まることを悟った。というのもオメガのアルファが効を奏して、ゼウスのローがイオタとなっていたからだ。それはとても先ほどまでローであったとは思えぬほどのイオタであった。思わず人々の口から感嘆のため息が漏れた。やるときはやるじゃないか。さすがに神だけのことはある。

ふはは。

 

東浩紀火星のプリンセス」 8点

「クリュセの魚」(「NOVA 2」収録)の続編。開拓された火星が今度は侵略されるという内容。国家ってのは本当にどうしよもないなあ、と思いましたが実際にありそうで困る。

谷甲州メデューサ複合体」 5点

むせかえる土木技術描写。理系なら、はぁはぁできますよ。たぶん。

瀬名秀明「希望」 3点

デカルト以来の物心二元論に鉄槌。質量こそが物体の在り方を基礎づけているのであり、なおかつ感情の原初でもあるのだ。ここにおいて精神もまた物質の一つの在り方にすぎないことがわかり、精神と物質が合一にして成るのである。
って話なんですかね? これは。まったくよくわからんかったです。僕だけじゃなくて他の選評者の方も口々に「結局ヒッグス粒子とは何だったのか」「主人公が痛みのない純粋な衝突感だけを知覚していたのは何だったのか」「希望が最後に残るって何だよ」と理解に苦しんでいました。
「でもSFネタとしての面白さは評価したい」「エレガントな統一性への反逆がテーマなのだから作品の構成も統一感が無いのは当たり前」との声もありましたが、「ひどいよ……こんなのあんまりだよ……」状態ですよ、僕は。
たしかに優美さにこだわり続けるのも醜いですが、こういった理解させる気のない構成もまたアレなんですよね。というか、これって、文学が昔から犯し続けてきた「難解な作品で読者を煙に巻く」という、あのスキームじゃないですか。こんなの突き付けられてドヤ顔されても困りますよ。失望が最後に残る。


交換会で放流されたラインナップ









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