第4回thinkCの私的メモ

著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム公開トークイベント日本は「世界」とどう向き合うべきか?−アメリ年次改革要望書、保護期間延長論、非親告罪化を手がかりに−に行ってきました。

日時 2007年8月23日(木) 午後6:30 - 8:30
場所 慶應義塾大学三田キャンパス東館6F Global Studio
主催 著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム 慶応義塾大学DMC機構 コンテンツ政策研究会
出演者(50音順)

中山信弘氏(東京大学教授)
久保田裕氏(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事、発起人)
ドミニク・チェン氏(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事、発起人)
コーディネーター:福井健策(弁護士・ニューヨーク州弁護士、世話人

このイベントについては

等で既に報じられていますが、私のメモも忘備録として公開します。どうしてこんなに遅れているのにメモを公開してしまうかというと、copyrightさんが本件についてアンケートを実施していらっしゃるので、そのにぎやかしになればということで…。皆さん是非ご協力を。
このメモはフォーラム中に個人的に書き留めたものですので出演者の皆さんや質問者の方など発言者の意図を正確に反映していない可能性があります。もしかしたら発言者と発言内容を取り違えているかもしれません…。また、出演者の方それぞれの発表は記載していません。以上の点につきご了承ください。きちんとした詳細を知りたい方はthinkcopyright.orgの動画配信をお待ちになるのが良いかと思います。以下敬称略。


非親告罪

福井:アメリカの外交要求について。年次改革要望書に保護期間延長、非親告罪化などの記載がある。これに関してどうか?

久保田:何故非親告罪化するのか?誰がメリットを受けるのか不明。悪質性のある行為を刑事手続きで明らかにしていくのが現状。問題ない。ただ、海賊版映画などならメリットはあるが…。親告罪だと「お目こぼし」。権利者による権利行使控えによって、次の文化が守られる。バランスがとれる。

ドミニク:大きなアクターでなく個々のクリエイターの意識がはっきりしないまま、エンフォースしてしまうと、教育という観点からはよろしくない。CCは自ら発意していくもの。同意しかねる。

中山:委員なので、自分の意見は…。客観的事実だけに留めたい。知財戦略本部の検討では、海賊版がテロや暴力団の資金源となりうるという認識。知的財産のなかで著作権だけが親告罪。でも重罰化傾向で、日本は世界と比べてもまれにみて重い。物を盗んだのと同じに扱いたいという政治的観点。特許権と比べると侵害の様態は様々。どれを非親告罪化するのかも問題。

福井:著作権は誰のためにあるのかという問題もはらむ。著作権保護期間延長についてはどうか。

ドミニク:盲目的に反対とは言わない。

久保田:審議会でもデータを発表しているが…別に仕込んだわけでもないのに、協会は意見が二分している。個人的には、草の根クリエイターが生み出す作品があまりイメージされていないのではと思う。ピラミッドの上位だけイメージして議論している。「情報モラル」。延長は一概に良いとも言えないだろう。

保護期間を延長しないのは「恥ずかしい」?

福井:今のご意見は、世間が期待する反応ではありませんでしたが(笑)、貴重な意見。では「欧米水準に追いつきたい」という意識については?

中山:先ほどスピーチでは述べたが…「恥ずかしい」という言葉が出ている。またはリスペクトの問題なのか?何故恥ずかしいのかわからない。ヨーロッパが70年にしたのは、EUの統合の影響。期間が短い国と長い国とあったら、法の技術として、長い方にあわせる方がやりやすい。またそれは現在のようにITが発達していなかった時期。現在とは時代背景が異なる。アメリカの改正はハリウッドの圧力。それをまねしないのは、恥ずかしいことだろうか?日本の文化が遅れてしまうというのならわかるが…。敗戦コンプレックスがあるのでは?

ドミニク:国際感情を論じることはできない。もっと日本スタンダードみたいなものを考えるべき。

久保田:エンフォースメントがきちんとできるのか、が私のテーゼ。50年が70年になっても解決できるか?外貨が獲得できるのか?90年代以前のライセンスはほんとうにひどい。穴がありすぎる。そっちの問題をどうにかする方が先。外国はデュープロセス(適正手続)を徹底している。70年にするメリットがないのでは?

質疑応答

福井:私の設定が悪かったのか対立軸がはっきり出てきません…(笑)そこで会場からご意見をうかがおうかと。

会場:70年に延長した国はメリットを受けているか?

中山:効果が出るのは当分先。あまりプラスにはならないようだ。メリットを得るのはごくごく一部。私の著作は死後70年ももちません(笑)この会場にいるひとたちは全員著作者だと思いますが、このなかに一人も…というのは言いすぎでしょうか(笑)まあせいぜい恩恵をうけるのは一人くらいでしょう。

会場:Winnyは誰かが親告したわけでもないのに逮捕されてしまった。これはおかしいのでは?

久保田:正犯に対して、われわれの協会員のひとつが告訴している。その訴権の範囲で従犯も起訴された。

中山:親告罪は起訴ができないだけで捜査はできる。あと、先ほどの質問に追加で…。保護期間延長はアーカイブには影響があります。

福井:今は告訴がなければ捜査が空振りで終わる。空振りで終わるのを嫌うということを考えると、非親告罪化で捜査に着手しやすくはなるだろう。

会場:欧米でも著作権保護期間延長に反対している人はいる。また、できれば永久に保護してほしいというのが本音では?

中山:無期限延長は反対。文化の発展に寄与しないからだ。青空文庫には商業出版になじまないものもある。そもそもリスペクトは期限と関係ない。法的にはお金の問題。経済的観点から考えるべき。

会場:白田です。しゃんしゃん進行なので、あえて聞いてみます。国内はベルヌ・ミニマム、外国作品に対してはものすごく厳しく取り締まる。特別保護対象としてディズニーやマイクロソフトを指定して、ミッキーのワッペンをつけていただけで逮捕されてしまうというのはいかがか?

中山:社会科学に実験はできないので…(笑)特区にするにしても難しいでしょう。意図するところはわかりますし、おそらく予想通りの結果になるとは思いますが。

知的創造サイクルの「日本モデル」は可能か?

福井:皆様のおかげでやや会場も夏らしく熱くなってまいりました。次は、知的創造サイクルの「日本モデル」は可能か?知的財産は欧米モデル。そして今、南北問題として批判を受けている。

中山:日本法のオリジン(起源)はヨーロッパ。そしてローマ法。欧(米)型があると考えて良いだろう。今世紀は途上国が挑戦するステージだ。エイズの薬は特許料のために高額。必要とする人が手に入れられない。あるいはサイモン&ガーファンクはペルー民謡を利用して大金を得たのに、ペルーのひとたちには一銭も入らない。ヨーロッパの所有権モデルではつらいのでは。鉱物資源なども欧米資本のものが国有化される傾向にあり、それが国際法上認められるようになった。

福井:知的創造サイクルは創造、保護、活用。保護一辺倒だけではない。3つのバランスが求められている。権利者の正当な要求とは?それは流通や利用とバランスできるか?ここは論争になりがちなところ。カバー曲のアレンジは編曲権、同一性保持権に関わる。JASRACの許可だけでは足りないのではないか。もっとさかのぼらなくてはならない問題なのではないか?

久保田:法と教育と電子技術が大切。それがあれば契約でなんとかなる。まだまだ日本は契約社会じゃない。昔の契約は本当にひどい…。技術と法がマッチして、教育が支えればかなり良いバランスになる。

福井:制度を不断に変え、教育をし、契約をすれば利用が確保できるということか?

久保田:そう。電子技術込みの契約なら。

ドミニク:バランスとは常識だと思うが、常識は数年で変化する。今動いているものに注目してみたり古いビジネスモデルに固執するとついていけない。たとえばP2P技術。ナップスターで音楽の受け取り方が変わった。あるいはクロアチアとかのファンサブ。放映して数日後には字幕つきで流れる。そしてその字幕を作った侵害者から著作権者にFAXがきてビジネスするなら協力させてくれと言ってくる。でも出版社とかはそういうのに対応できない。これは双方に不幸なこと。

中山:これからは流通・利用に力点。財産権は、論理的には、マーケットに任せればうまくいくはず。しかし人格権、特に同一性保持権はうまくいかないで阻害要因になりうる。強い人格権の日本法。デジタル時代に合うかどうか。法的リスクを含んでいるので、価格を下げることになる。クリエイターにとって不利益になる。

著作権法の課題

福井:課題と思われる点はなんだろうか?例えば過去の作品のアーカイブにおける自発的ライセンス。

ドミニク:ワンフェスの1dayライセンスは面白い。問題はあるが、分野ごとに自主的にルール作り。トップダウンだけじゃなく現場で作っていく。

久保田:オマージュは作品に対する敬意がある。契約が成立しないわけではないと思う。信頼関係があるという前提なら。

ドミニク:CCはゆるいライセンスであるというイメージがある。でも、性善説的なサイクルだけではない。

中山:先ほど「論理的には」と言った。お金がほとんど動かない著作物はマーケットメカニズムでうまくいかない。実は、隠していたわけではないが、私はCCJPの理事長。CCはコストのかからないものも利用活用できる。

質疑応答

福井:比較的一致をみた。会場へ。

会場:アーカイブデジタルアーカイブについて、制限法上の可能性はあるか?

中山:アーカイブはマーケットメカニズムがうまくいかないもの。何らかの手当てが必要だろうと考えている。デジタル図書館が出てくるだろうし。

会場:コストではなくて、法的な、フェアユースの可能性について聞きたい。

中山:あると思います。制限規定の可能性も。

会場:甲野と申します。文化庁も保護だけでない。だから「保護と利用の小委員会」。民でも官でもそこまで成熟していない。権利者から要望が出て、それに対する異議の応酬。解が出てこない。保護期間のメリットデメリットを良く見るのと、デメリットの対策を考えることが重要。もっと議論すべき。またアメリカの要求は、ほとんど考えていなかった。アメリカから押し付けられているから反対というのは、短絡的思考。まずいのではないか。

福井:日本にとってのメリットデメリットを考えるべきということ。次回はこちら(壇上)にお願いします(笑)

会場:保護期間延長でメリットを得た人にもっと何か負荷したらどうか?

中山:世界でも例がないが…。意見としてはある。不利益はアーカイブへの障壁などお金の問題だけではない。お互い利用しあってやってきたわけだから、そこが不利益ではないか。国がお金を取るのは難しい問題。

会場:権利者対利用者で語られることが多いが、ほんとうにそうか。価値のない著作物もある著作物も法は同一に扱うべき。

中山:まさにおっしゃるとおり。しかし権利者団体の方が声が出る。著作権法特許権法の大きな違い。そこは法改正議論のポイント。

さいごに

福井:日本は世界とどう向き合うべきか?

中山:知的財産は情報で、情報には国境がない。グローバル化の宿命にある。ある程度の調和が必要。しかしベルヌ条約で50年にできている。

久保田:日本は情報を発信すべき。発言すべき。制度だけではなく文化交流。本当の文化は何か。輸入のほうがまだ多いのだから、輸出の方が多くなるまでの間に日本モデルを考える。エンフォースメントできるようにならなければならない。権利主張やライセンス売買をもっとすべき。自信をもつべき。

ドミニク:根本的問題は、クールジャパンという語自体が輸入であること。日本の文脈で正確に理解するのは難しい。そうしない限り、日本と世界という関係構造もできない。





討議メモは以上です。thinkC主催者の皆さん、参加者の皆さん、興味深いイベントにしていただいてありがとうございました。次回も期待しています!


さて、最後にひとつだけ。メモの中にも出ていた文化審議会著作権分科会過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会ですが、第7回が9月3日に開催されます。いよいよメインテーマのひとつである保護期間の延長について本格的に話し合われる予定です。傍聴に行かれる方も行かれない方も、ぜひこの議論に注目してみてくださいね。