元政治学者の どこ吹く風

アカデミックな政治学者には語れない日本政治の表と裏を元政治学者が大胆に論じ、将来の日本の政局を予測する。

麻生総理で総選挙が遠のく可能性

本日午後には、新しい自民党総裁が選出される。予想通り(予想以上?)の圧倒的大差で、麻生太郎が選出されることになる。24日には臨時国会が召集され、麻生総理が誕生する。

ところで、解散権は総理の専権事項という建前とはうらはらに、総裁選の最中から総選挙日程が決定事項であるかのようにマスコミに流れていた。
麻生政権が何を実現するかということよりも、自民党が政権を維持することにしか関心がない−そのなかで自分が一定の地位と権益を保つことにしか関心がない−「にわか麻生支持の自民党有力者たち」が、かなり意図的に情報を流していたようにも見受けられる。


総裁選の勢いを重視して早期に衆院解散というシナリオは、総裁選の勢いが思ったほどの効果を発揮していない状況からすると、それほど磐石のシナリオではない。

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080913-OYT1T00013.htm

10月上旬の衆院解散を予定している自民、公明両党は、衆院選の日程をできるだけ前倒しすることとし、「10月14日公示―26日投開票」で実施する方向で調整に入った。
 複数の与党幹部が12日、明らかにした。自民党総裁選の勢いを維持したまま衆院選に突入するには、選挙までの期間をできるだけ短縮した方が有利、との判断からだ。衆院の解散は、新首相の所信表明演説に対する各党代表質問の終了直後の10月3日にする方向だ。
 最終的には、総裁選で選ばれる新総裁(首相)が決定する。

http://www.asahi.com/politics/update/0918/TKY200809170332.html


だが果たして、麻生総理は、10月上旬の解散、10月26日投開票というシナリオどおりに「決定」するだろうか。

ちょっと前に、こんな記事を書いておいた。
衆院解散。麻生総裁なら、来年にずれ込む???w - たかはしはじめ日記 政治学者 高橋肇のメモランダム

森元首相の言動はどうあれ、解散は総理の決断で決まる。

自民党の一部有力者や公明党にとっては、麻生政権がどうなるかにはさほど興味がないようである。彼らは総選挙で−自公連立で政権を失わない程度に(あるいは、自分の議席を失わない程度に)−勝てればよいのである。麻生政権が短命となろうが知ったこっちゃないという雰囲気である。

ちなみに、臨時国会は24日に召集される。同日中に首相指名選挙、29日に新首相の所信表明演説、10月1、2日に各党代表質問を行う。会期は11月30日までの68日間である。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20080919-OYT1T00375.htm

代表質問直後の解散というのが、有力なシナリオとされてきたが、ここにきて解散時期をめぐっては、いくつか気になる情報が出ている。

一つは、「リーマン・ブラザーズ破綻(はたん)や事故米年金記録改ざんと続出する問題」の影響である。

http://www.asahi.com/politics/update/0917/TKY200809160313.html

麻生政権の「賞味期限」内に臨時国会冒頭解散・総選挙へ――が与党戦略だ。自民党内では麻生氏圧勝の流れに乗って「10月26日投開票」の短期決戦を期待する見方も出ている。
 しかし、リーマン・ブラザーズ破綻(はたん)や事故米年金記録改ざんと続出する問題が影を落とし始めた。
(中略)麻生氏は16日、リーマン破綻について「影響が大きすぎるところに全く何もしないで放置するやり方が正しいやり方かというと、大きな疑問がある」と米政府の対応を疑問視。

冒頭解散のシナリオに対して、年内解散はないと指摘していたジャーナリストもいる。
http://www.uesugitakashi.com/archives/51502664.html
http://www.uesugitakashi.com/archives/51503401.html
http://www.uesugitakashi.com/archives/51504280.html

「解散よりも緊急経済対策が急務」「冒頭解散とか、早期解散とか、そんなことはありえません。緊急経済対策を仕上げてから、考える。当たり前でしょう」という麻生氏の発言は、リーマン破綻などの影響の中、説得力を増す可能性が高く、早期解散のシナリオは覆される可能性が高くなってきている。


そもそも麻生氏自身は、早期解散よりも実績をあげてから解散したいと思っていたと思われる。ある意味そう思うのは当然であって、自分の政策と実力に自信を持っていればいるほど、総理になってすぐ解散したいとは思わないだろう。実績を上げて、支持率を上げて、それから解散したいと思うのはごく当然の感覚だと思われる。

その際の問題は、本人の意に反して、実績も支持率も上がらない場合に、解散のタイミングを失うということだ。

もちろん、実績と支持率が上がれば言うことはないし、麻生政権がそうならないとは言えない。野党の対応も鍵を握っている。野党が対応を誤れば、麻生政権の支持率は上昇する可能性がある。


先日の日記にも書いたが、「自民党にとって最善の解散、総選挙の時期は、臨時国会冒頭である。」
この考えは、いまのところ変わっていない。ただし、野党が麻生政権を追い込み支持率を低下させるという条件付きである。

いわゆる「ねじれ国会」の現状においては、野党側の対応にもよるが、政権がどうあがこうがうまくいかず、結果、支持率がどんどん下がる状況にある。自民党の戦略としては、支持率の一番高い時期に解散すべきである。
臨時国会冒頭解散!〜いざ、総選挙による首相選びへ! - たかはしはじめ日記 政治学者 高橋肇のメモランダム

さて、麻生総理が解散権を行使しないで、補正予算の成立からさらには通常国会まで射程に入れ始めた場合、すなわち解散を先延ばしする方針をとった場合、野党はどう対応すべきか。

野党の対応いかんでは、麻生政権は浮上する。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_date2&k=2008092100079

民主党菅直人代表代行は21日、NHKの討論番組に出演し、自民党麻生太郎幹事長が臨時国会で2008年度補正予算案の早期成立を目指す考えを示していることに関し、「予算を(審議)引き延ばしの材料にするのでなく、ある程度のところで決着を付けることは約束できるのではないか」と述べた。

政局オンチぶりはいまに始まったことではないが、せめて10年前に金融再生法案での対応の誤りから自自連立を導いた苦い経験を思い出してほしいところだ*1



麻生氏は次のように述べている。

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/179810/

平成20年度補正予算案について「緊急だから緊急経済対策と言っている。ぜひ通させてもらいたい。できれば衆院解散はその後だ」と述べ、補正成立に意欲を示した。ただ、「相手が審議に乗ってくるかは別の話だ。乗らないという話もある。これまで何度もだまされてきた」と指摘し、民主党の対応次第では冒頭解散に踏み切る可能性も示した。

もうひとつ。

http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_date3&k=2008092000018

 その一方で次期衆院選の時期に触れ、「補正予算案が(衆院で)1日(参院で)1日で上がるなら10月26日もあり得る。ぐじゃぐじゃになって先延ばしになるかもしれない」と語った。 
 また、民主党補正予算案を衆参両院で採決した上での「話し合い解散」を提案していることに関しては、「何日も(国会の)空白が続くのは避けなければならない」と述べ、同党が補正予算成立に抵抗する場合は、成立前解散もやむを得ないとの認識を示唆した。(了)


要するに、補正予算成立に民主党が協力した場合には(話し合い解散を約束したとしても)「ぐじゃぐじゃになって先延ばし」にすることもありうるが、「同党が補正予算成立に抵抗する場合は、成立前解散もやむを得ない」という認識だということだ。


「政策より政局」を重視するのが誤りだとすれば、「政局よりも政策」を重視するのも誤りである。政策を実現するためには政局を制することが必要である。郵政民営化がよい例だ。郵政民営化という政策を実現できたのは政局を制したからに他ならない。同じ総選挙で民主党が主張した年金政策がいまだに実現できていないのは、政局を制することに失敗したからだ。よい政策だから実現されるというのは政治的には正しくないのである。


政局を制せずして政策は実現できない。政策力と政策実現力とは違う。

負け犬の遠吠えにならないためには、政策力だけでなく政策実現力(政局を制する力)が必要である。結婚願望だけでは結婚できないのと一緒である。


民主党は、下手な話し合いや妥協に応ずることなく、政権交代抜きに一切の問題は解決しないとのこれまでの姿勢を堅持すべきである。すなわち、補正予算審議前の早期解散総選挙を要求すべきである。


追記:こんな記事を書いていたら、こんなニュースが。。。汗

http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/080922/stt0809221131006-n1.htm

民主党山岡賢次国対委員長ら野党4党は与党側に対し、24日召集の臨時国会で政府・与党が検討している月内の衆院解散に反対し、平成20年度補正予算案の審議を行うよう要求した。

野党側はもともと冒頭解散を望んでいなかったのだから、こういう対応もわからなくもない。だが、麻生政権を甘く見るとせっかくの政権交代のチャンスを逃すことになるかもしれない。

*1:このときの状況を、例えば森田実は次のように描いている。「98年7月12日の参院選で大きく変化した政局の流れは、9月末の民主党を中心とする野党共闘の崩壊を契機に逆転した。「民自公」主導の時代は終わった。自民党は、参院選敗北、橋本内閣総辞職、不人気な小渕政権の成立の過程で国民のきびしい批判にさらされつづけた。他方で、参院選の勝者の野党第一党民主党は人気急上昇で、政局の主導権は菅直人民主党代表が握った。こうした政治状況下で、7月30日の首班指名選挙では自由党共産党が第1回投票から菅直人民主党代表に投票した。衆議院は小渕自民党総裁を指名したが、参議院菅直人を指名した。そのうえ、金融再生法案の審議では民主、自由、平和(公明)の三野党共闘が実現した。7月末から10月中旬に至る臨時国会における最大課題の金融再生法制定において民主党は主導権をとり政府自民党を押しまくり、野党三党案を丸飲みさせた。このときが民主党の絶頂期であった。だが絶頂期において三野党共闘は躓く。菅代表は経団連今井会長との会談の席上「金融問題を政局にしない」と発言した。この発言は臨時国会での小渕内閣打倒を狙っていた自由党を失望させた。この「舌禍」事件を契機にして自由党民主党との共闘から腰を引きはじめる。そして自民党と野党の金融再生法協議から離脱した。金融再生法問題をめぐる自民、民主、新党平和(公明)の三党協議が始まると、自民と平和(公明)が急接近し、民主党は孤立状況に追い込まれた。民主党主導の政局は一瞬にして逆転し、「自公協力」主導に変わったのである。民主党から離れた自由党も政府・自民党との関係も「歴史的和解」に向かって進みはじめる。野田幹事長、二階国対委員長らの自由党幹部と政府・自民党幹部との公然・非公然の接触が重ねられた。こうした経緯を経て、自民、自由、公明のゆるやかな協調体制が形成され、民主党孤立の政治状況がつくられた。」「森田実の時代を斬る」98.10.29政局は動く/「自自公」VS民主の時代へ    また、鈴木淑夫議員(当時自由党)は次のように書いている。「異例づくめの第143臨時国会は、1週間の会期延長のうえ、10月16日(金)、79日間の会期を了えた。この国会は、7月30日から開かれ、夏休み返上で秋の深まる頃に終わったという点で、まず時期的に異例の国会であった。金融問題の処理が切羽詰まっていたためだ。しかし何よりも異例であったのは、冒頭の首班指名において、衆議院が小渕首相、参議院菅首相を指名したことだ。7月の参院選自民党過半数を失ったためであるが、これがその後の異例の審議経過を暗示していた。会期前半には、菅首相に投票した民主党、平和・改革、自由党の野党3会派が結束した。1ヵ月に及ぶ野党3会派の「実務者協議」と「政策責任者協議」の結果、野党3会派は金融機関の破綻処理の枠組みについて合意に達した。政府・自民党提出の金融安定6法案に対抗して、野党3会派は金融再生4法案と信用保証協会法等改正案の5法案を共同提出した。私は自由党の実務者として終始野党協議に参加して法案作成に関与し、自由党を代表して法案提出者の1人となった。このため、衆議院の金融安定化特別委員会で6回、参議院の本会議で1回、参議院の金融経済特別委員会で4回、計11回も法案提出者席(通常は大臣の席)に座って与野党議員の質問に対して答弁した。参議院でも答弁することになったのは、政府が自ら提出したブリッジバンク法案を取下げ、野党3会派提出の金融再生4法案にブリッジバンク方式を付け加える形で共同修正し、衆議院で可決、成立させたからである。これが、所謂「野党案丸呑み」である。この法案修正、成立過程は、政府提出法案が取下げられ、野党の議員立法与野党が共同修正したという点で、憲政史上異例の出来事である。その過程では、野党議員が衆議院法制局を使って立法し、内閣法制局や大蔵省などの官僚があまり関与しなかったという典型的な「政治主導」であった。野党3会派の共同提出法案を政府が「丸呑み」し、その修正過程では8月、9月の2ヵ月にわたって野党第1党の民主党に引きづり回された自民党、平和・改革、自由党は、会期の後半に入って違う動きを始めた。ここから野党3会派の結束がほころびたのである。そのきっかけは、第1に、菅民主党党首が「長銀問題は政局にしない」と述べたことである。それまで政府は、「長銀が破綻したら日本発の金融恐慌が起こり兼ねない」「長銀債務超過ではない」「長銀には公的資金を注入し、住友信託と合併させて救済する」といい続けていた。しかし実際には、長銀債務超過であり、公的資金を入れるわけにはいかず、住友信託との合併話も白紙に戻り、公的管理によって破綻処理されることになった。それにも拘らず、日本発の金融恐慌どころか、市場の動揺も起きていない。小渕首相、宮沢蔵相を始めとする政府の国会答弁は、食言となった。これを追求すれば、小渕内閣は間違いなく退陣に追い込まれたであろう。ところが野党第1党の菅党首が「政局にしない」と言ったばかりに、それが出来なかった。小渕内閣を倒せば、自民党の反執行部派の動き次第では、、菅内閣が出来たかもしれない。菅直人は「長蛇を逸した」のである。菅首相の芽は消えた。そうなると第2に、首班指名菅直人と書いた平和・改革と自由党は白けてくる。特に金融再生法案の修正過程では、民主党が独走して政府・自民党と勝手に交渉し、野党3党合意を逸脱する妥協をした。それは、破綻金融機関を公的資金で救済しないという3党合意にも拘らず、預金保険法上の破綻宣告なしに破綻しかかった銀行を国有化し、公的資金不良債権を取除いた上、再び民間に売却するというルートを自民党との法案修正によって開いたことである。これは政府・自民党が、長銀処理を頭に置いてやったことだ。自由党はこの野党合意違反を政策の基本に係わるものとして重大に受け止め、金融再生法案の修正交渉から離脱し、修正部分に対してのみ反対票を投じた。民主党の独走に不信感を抱いたのは、首班指名菅直人と書いた平和・改革や自由党だけではなかった。修正過程で次々とバーを引上げ、くるくると意見が変わり、党首と実務者のどちらの意見が正式か分からない「司令塔不在」に引きずり回された自民党は、民主党に対して決定的な不信感を持った。後半国会に入って自民党は、民主党を除く他の野党と法案ごとに修正協議を行ない、成立させる戦術に転じた。その結果、金融早期健全化法案は平和・改革及び自由党と、旧国鉄債務処理法案は自由党及び社民党と、それぞれ自民党提出法案を共同修正して成立させた。また破綻金融機関の借り手中小企業に対する信用保証の拡大・充実については、自民党自由党が合意して法案を作成、それに民主党と平和・改革が相乗りして共同提出し、成立させた。この一連の動きが、所謂「部分連合」方式である。この間民主党は、完全に主導権を失った。」第143回臨時国会活動報告