2017年5月号掲載 毎日新聞夕刊報道グループ記者(当時)/藤原章生 安部公房の小説「けものたちは故郷をめざす」を読んだ時の興奮、感動を今もはっきり覚えている。高校1年の秋なので、かれこれ40年近く前のことだ。すでに「他人の顔」「砂の女」を読んでいて、すっかりこの作家にはまっていたが、高校1年の現代国語の課題で内外の1作家の作品を読みレポートを書くという課題があり、少し背伸びがしたかった私はロマン・ロランの「ジャン・クリストフ」を読み、長大な作品を読み通せたことが嬉しくなり、「戦争と平和」を読んでいた頃だった。 当時は土曜になると、別の高校に通った中学時代の友人の家で、それぞれの学校や文学につ…