木走日記

場末の時事評論

夕張市の15年に渡る粉飾決算が生んだ絶望的な巨額借金〜あきれるほどの無責任体質


●悪質な財政破綻自治夕張市に甘すぎる読売社説

 本日(27日)の読売社説から。

6月27日付・読売社説(2)
 [夕張市の破綻]「地方自治体の再建をどう進める」

 借金の重さに耐えかね、財政破綻(はたん)する自治体が現れた。

 北海道夕張市が、「財政再建団体」への移行を総務省に申請することになった。年内に指定を受ければ、福岡県の旧赤池町以来、14年ぶりのことだ。総務省の厳しい監視下で、歳出削減や住民の負担増を求め、再建を目指すことになる。

 地元産業の衰退や人口流出で、財政危機に直面する自治体は少なくない。夕張市の後を追う自治体が相次ぐのではないか、との見方もある。

 こうした事態に備え、総務省は「破綻法制」の導入準備を進めている。行き詰まった自治体に、新たな再建手法を適用するものだ。

 破綻した自治体の再建が長引けば、住民生活にも大きな支障が出よう。再建を早期に軌道に乗せるためにも、破綻法制導入の検討を急ぐべきである。

 夕張市のケースは、自治体の財政破綻の典型的なパターンだ。地域経済を支えていた炭鉱が閉鎖され、経済規模が一気に縮小した。新たな雇用先を確保しようと、借金でレジャー施設などを開園したが不発に終わり、借金だけが残った。

 我が身も同じと感じている自治体関係者は、日本全国にいることだろう。

 だが、苦しいのは自治体ばかりではない。国の財政事情は、地方より悪い。政府・与党は、歳出削減策の一環として、自治体が頼る地方交付税にもメスを入れる構えだ。これ以上、交付税をあてにするわけにはいくまい。

 検討中の破綻法制は、これまでの再建制度にはない「早期是正措置」の発動を可能にするのが特徴だ。

 都道府県や、新たに設置する第三者機関が、市町村の財政状況を常に監視し、危ないと判断した場合、事前指導に乗り出す。予算の緊縮を求め、状況の改善に努めてもらう。それでもダメな時は破綻を認定し、再建を主導する。

 自治体が破綻した場合、現状では借金や地方債について、返済免除を受けることは不可能だ。だが、新制度では認めることが検討課題とされている。

 民間企業や第3セクターが破綻した時には、債務の返済を一部免除するのが普通だ。自治体でも可能になれば、身軽になることで、再建は容易になろう。

 ただ、地方債を購入したり、資金を融資したりする金融機関は、自治体の財務に対する厳しいチェックが、これまで以上に必要になる。自治体も、より健全な財政運営を目指す必要に迫られよう。

 債権者との緊張関係を高めることが、自治体の財政規律向上に、効果的ではなかろうか。

(2006年6月27日1時22分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060626ig91.htm

 総額500億とも600億とも言われている借金を計上して財政破綻が露呈した北海道夕張市なのでありますが、読売社説は記事の結語をこうまとめています。

 民間企業や第3セクターが破綻した時には、債務の返済を一部免除するのが普通だ。自治体でも可能になれば、身軽になることで、再建は容易になろう。

 ただ、地方債を購入したり、資金を融資したりする金融機関は、自治体の財務に対する厳しいチェックが、これまで以上に必要になる。自治体も、より健全な財政運営を目指す必要に迫られよう。

 債権者との緊張関係を高めることが、自治体の財政規律向上に、効果的ではなかろうか。

 なるほど「民間企業や第3セクターが破綻した時には、債務の返済を一部免除するのが普通だ。自治体でも可能になれば、身軽になることで、再建は容易になろう」とはそのとおりですが、このような状態を看過してきた自治体・行政側の責任を不問にして「債務の返済を一部免除する」とするならば、それでは到底国民は納得できないでしょう。

 「債権者との緊張関係を高めることが、自治体の財政規律向上に、効果的ではなかろうか。」は当然でありますが、何よりも自治体側の無責任体質を糾弾し、徹底的な意識改革と職員の痛みを伴う歳出削減策が求められるのではないでしょうか。

 600億という巨額債務を放置してきた自治体側の無責任体質を正すことなく債務返済免除を示唆するこの読売社説のやさしい主張には、とうていうなずくことはできません。

 読売社説は悪質な財政破綻自治夕張市に甘すぎると思います。



●市側の15年に渡る粉飾決算が生んだ絶望的な巨額借金〜あきれるほどの無責任体質

 20日の読売新聞から。

北海道夕張市財政再建団体申請へ…負債600億円超

 北海道夕張市後藤健二市長は20日開会した市議会で、財政再建団体の指定を国に申請する方針を表明した。

 実質負債は600億円超で、1年間の標準財政規模(約45億円)の10倍以上。今年中に指定されれば、1992年の福岡県旧赤池町(現福智町)以来14年ぶりで、財政運営は事実上、国の管理下に置かれる。

 夕張市は、最盛期24か所あった炭鉱で栄えたが、90年に最後の炭鉱が閉山し、約12万人に上った人口も約1万3600人に激減。市は観光振興を打ち出したが、失敗した。

 市によると、負債の多くは、会計上の回転資金である「一時借入金」が占める。市は15年ほど前から、単年度決算を「黒字」とするため、前年度決算を整理する「出納整理期間」(4月1日〜5月31日)に一時借入を毎年行い、決算上の収支不足を補っていた。

 しかし、長期の地方債より金利が高く、長年にわたって借り換えを繰り返すうちに、借金が膨らんだ。財政再建団体の指定を受けるため策定する財政再建計画では、歳入、歳出が厳しく見直され、公共料金などの引き上げで住民負担は増加する。

(2006年6月20日18時49分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060620i304.htm

 それにしても「実質負債は600億円超で、1年間の標準財政規模(約45億円)の10倍以上」とはあきれる話です。

 民間企業でよく粉飾決算が問題になりますが、売上げ45億の企業が600億以上の赤字を隠して10年以上も黒字決算を計上するなどということは、逆立ちしてもできません。

 年収の10倍以上の借金を帳簿上の粉飾することなどどうあがいても不可能ですし、第一このような大赤字であるならば粉飾を繰り返す前にとうに財政破綻して倒産していたことでしょう。

 夕張市側にも、炭坑が閉山し急激に税収減に見舞われ、加えて12万の人口が10分の1近くに減少してしまうというお気の毒な事情があったことは認めるモノです。

 しかしながら「市は15年ほど前から、単年度決算を「黒字」とするため、前年度決算を整理する「出納整理期間」(4月1日〜5月31日)に一時借入を毎年行い、決算上の収支不足を補っていた。」のが事実とすれば、15年前から実質財政は破綻し始めていたわけで、粉飾してごまかして問題を先送りにしてきた市側の責任は重大であります。

 この15年の間に雪だるま式に借金が膨らんできたわけです。

 一時借入制度という民間では考えられない意味不明の勘定を自治体に認めてきた北海道側の管理監督責任も厳しく問われるべきでしょうが、もし夕張市側が真摯に15年前に財政破綻を認めていたならば、このような結果には至っていなかったでしょう。

 14年前に財政破綻した福岡県の旧赤池町の負債総額は32億円でした。

 旧赤池町は、夕張市と同じ、炭坑の閉山で税収が激減した町でした。

 赤池町の公共料金は軒並みあがりました。水道の基本料金が12%、町営住宅の家賃やプール、野球場の使用料は1〜2割程度、汚水処理料は6割値上げされました。し尿処理代はほぼ倍になりました。70歳で4200円もらえた敬老年金は2千円に削られたのです。
 もちろん、町も節約に節約を重ねました。職員数は同規模の自治体の87%程度に減らされ、町長は運転手付きの公用車を廃止、自分で自家用の軽トラックを運転しました。陥没した道路は職員が自分で補修し、町職員の給与も県内で最低の水準に落とされ、夏に役場が40度近くになっても、新しいクーラーを買えなくて気分が悪くなる職員が続出したそうです。町内の企業から中古品をもらってやっとしのいだそうです。

 なにせ町長が町営プールの水浄化機を国に無断で修理したら、修理代はわずか10万円でしたが後から「今後は国と協議する」と始末書を書かされたそうです。

 それでも32億の負債を返済し財政を再建するのに12年掛かったのです。

 夕張市財政再建計画が何年で計画されるのか国の決定が待たれますが、32億を12年で返済した旧赤池町の計画を単純に夕張市に当てはめれば、600億の返済には240年掛かってしまいます。(下記記事参照)

《夕張ショック》「財政再建団体」とは?
2006年06月22日 朝日新聞北海道版
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000000606220005

 これらの負担が全て市職員と市民に負わされるのです。

 赤字を15年間もごまかして放置してきた市側の無責任体質はどんなに厳しく責められても免罪できるものではありません。



●道内平均の倍以上の職員数を抱えながら加速して悪化した夕張市の経常収支比率

 夕張市の無責任ぶりは単に財政赤字を10年以上誤魔化してきただけではありません。
 ここ15年で人口は10分の一近くに減少し収入も急減する中で、市側として当然取り組むべきであった人件費や経費を抑制することは、ほとんど消極的だった事実が判明しています。

夕張市負債 500億円超 収入の10倍
2006年06月16日

(前略)

 最盛期は12万人近かった人口は、現在は10分の1の1万3千人に減った。うち高齢者が40%近くを占める。地方交付税は国の財政難により01年度からの3年間で18億円以上減少。05年度は31億円だったが、7月上旬に決定する交付税額はさらに減る見通しだ。

 こうした状況を受けて、市は02年度から行財政正常化対策に取り組んでいる。14年度までに職員を100人減らすほか、事業や給与制度の見直し、補助金の削減などが柱だ。

 しかし、こうした「正常化対策」がどこまで徹底したかといえば、「全く改善していない」というのが道の採点だ。職員削減では、04年度の人口千人あたりの職員数が道内平均の倍以上の20・12人と相変わらず多い。財政も好転の兆しは見えず、一般財源のうち義務的な支出の割合を示す経常収支比率は116・3%で全国で最悪だ。

(後略)

朝日新聞北海道版
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000000606160005

 夕張市が取り組んでいた「正常化対策」がいかに口先だけであったかは、「職員削減では、04年度の人口千人あたりの職員数が道内平均の倍以上の20・12人と相変わらず多い。」ことだけでも自明でしょう。

 「経常収支比率は116・3%で全国で最悪」だそうですが、ココ一年でも経常収支比率がさらに悪化していたことが昨年の読売新聞関西版の記事と比較すれば一目瞭然です。

財政再建への道
財政難自治体、人件費比率高く

 地方自治体の財政状況を示す指標の一つに経常収支比率がある。人件費や公債費などの義務的経費が地方税や国からの交付税といった財源に占める割合で、比率が高いほど財政が硬直化している。

 比率100を上回る市が、平成15年度は全国で23にのぼった。うち11は大阪府内の市であることが目につく。財政赤字に陥っている自治体を見ても、昨年度は都道府県で唯一、大阪府が入っているのをはじめ、四つの市が含まれる。

 関西経済の地盤沈下という背景事情だけでなく、やはり、行財政改革が徹底できず、人件費比率の高い自治体がまだ目につく。

 もともと大阪府内の市町村は、職員の給与水準が高く、財政難の要因になりやすかった。驚くばかりの職員厚遇が明るみに出た大阪市の場合は、改革が遅れた自治体の最たるものだろう。

全国の財政難の市 ワースト2
(平成15年度 経常収支比率100以上)
1 北海道夕張市 109.8 炭鉱閉山による税収減と、閉山対策事業に伴う公債費増大
2 大阪府高石市 109.7 人件費比率が高く、下水道整備費もかさむ
3 福岡県山田市 107.6 炭鉱閉山以来の構造的な財源不足と、生活保護費など増
4 大阪府泉佐野市 106.6 関西空港関連事業による公債費増
5 大阪府守口市 106.1 施設職員数が多く人件費比率が高い。生活保護費なども増
6 奈良県御所市 105.6 景気低迷による税収減。人件費負担が大きい
7 大阪府摂津市 105.4 モノレール関連事業などで公債費増大。下水道整備費も。
8 和歌山県御坊市 104.9 火力発電所などの固定資産税減と、国からの地方交付税
9 大阪府四條畷市 104.3 企業が少なく、税基盤がぜい弱。施設整備などで公債費増
10 高知県室戸市 103.5 主要産業の遠洋漁業の不振に伴う税収減
11 北海道三笠市 103.1 炭鉱閉山対策事業費による公債費増
12 大阪市 102.5 地価下落による固定資産税減と、生活保護費など急増
13 北海道歌志内市 102.2 炭鉱閉山事業による公債費増
大阪府池田市 〃 税収減。施設職員多く、人件費比率が高い
兵庫県芦屋市 〃 阪神大震災の復興事業費に伴う公債費増
16 鹿児島県阿久根市 101.7 漁業不振による税収減。地方交付税補助金の減少
17 奈良県大和高田市 101.6 人口減少と高齢化に伴う税収減。ハコモノ建設で公債費増
18 大阪府豊中市 101.3 バブル以後の税収減が激しい。人件費比率も高い
19 神戸市 100.9 阪神大震災の復興事業に伴う公債費などで3兆円超の市債
大阪府泉南市関西空港関連事業による公債費増。人件費比率も高い
21 大阪府門真市 100.8 施設職員数が多く、人件費比率も高い。生活保護費など増
22 北海道赤平市 100.6 福祉施設直営による人件費負担と、炭鉱閉山対策事業
23 大阪府東大阪市 100.2 税収減が激しいうえ、生活保護費などが大幅増

財政再建への道 トップへ

(2005年11月09日掲載 読売新聞)
http://osaka.yomiuri.co.jp/local/lo51109d.htm

 この一年でも夕張市の経常収支比率は、道内平均の倍以上の職員数を抱えながら、109.8から116・3へと悪化してたわけです。

 ・・・

 いやはやなんともです。



●あきれる自治体の無責任体質〜夕張市財政破綻は「自治体破綻の始まり」に過ぎない

 私たち国民にとってさらに憂鬱なことは、このような不正な財政処理をして赤字をごまかしている自治体が北海道だけでもごろごろあり、この夕張市財政破綻が「自治体破綻の始まり」に過ぎないかも知れないことです。

 24日の北海道新聞は社説で次のように警鐘を鳴らしています。

ヤミ起債*いかに苦しいとはいえ(6月24日)

 空知管内の旧産炭地五市一町が、法に触れる「ヤミ起債」をしていたことが明らかになった。監視役の道も関与し、総額は最大で七十一億円に上る。

 高橋はるみ知事は道議会で、道の責任を認め陳謝した。是正方針を年内をめどに決める方針だ。

 夕張市財政再建団体の指定を申請することを決めたが、財政の厳しさは旧産炭地の自治体はどこも同じだ。ヤミ起債の背景である。

 しかし、苦しい事情はあったにしても、先の見通しも立ちにくい中で不適切な借金をしては、将来のつけをさらに大きなものにしかねない。

 市町も道も、それはわかっていたはずだ。それでいて違法状態を続けていたとすれば、責任は極めて重い。責任を明らかにした上で、早急に正常化の対策を立てるべきだ。

 (中略)

 違法状態を正すためにはこれらを返済するか、正式な地方債に切り替える必要がある。夕張市に続いて財政再建団体転落が心配されるところも出てきかねない。住民が不安を募らせることも予想される。

 ヤミ起債の仕組みづくりに関与した道の責任は重大だが、各市町も被害者ではない。道に頼り切るのではなく、自ら対策に当たってほしい。

 道の縦割り行政の根深さも露呈した。旧産炭地振興を担当する経済部が窓口になり、市町村の財政を担当する企画振興部には知らせていなかったという。

 夕張市の再建はもちろん、道自身の財政再建道州制特区の推進など、道の総合力が問われる場面が続く。

 縦割りの枠の中で当面を取り繕うようなことが体質になっていないか。心配はヤミ起債問題にとどまらない。

http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/backnumber.php3?&d=20060624&j=0032&k=200606249513

 今日の日経ネットに興味深いコラムが掲載されています。

 そのコラムの結語から抜粋。

「皆で渡れば・・・」――夕張の財政破綻では終わらない「集団的無責任」

(前略)

 個人が国家に頼る以上、必ず集団的無責任が起きます。「赤信号でも皆でわたれば怖くない」は、「借金でも皆で借りれば怖くない」ことになり、「破綻しても国民全体で処理すれば何とかなる」ことになります。

 私の思い出の地の夕張の財政は破綻しました。理由は収入の10倍の借金があるからです。国と地方を考えれば、日本全体ではそれよりもっと重い借金を抱えています。それでも真剣にならない官僚と政治家たち。彼らはきっと同じ本音を持っています。「皆で借りれば怖くない……」。

 「夕張の皆さん、怖いことは何もありません。国の方がもっと借金しているから」。これが大好きな夕張の皆さんへの激励の言葉です。

[2006年6月26日]
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=MMITzv000023062006

 「夕張の皆さん、怖いことは何もありません。国の方がもっと借金しているから」とはなんともシュールな激励の言葉なのであります。

 私も夕張の皆さんへの激励の言葉を送るとしましょう。

 「夕張の皆さん、あなた方は孤高ではありませんから怖いことは何もありません。北海道内からも関西からも日本全国からおそらく財政破綻する自治体が続々あなたがたの後に続くことでしょう。」

 夕張市に見られるような自治体の無責任体質が日本全国で正されない限り、この夕張市財政破綻は「日本の自治体破綻の始まり」に過ぎないのかも知れません。



(木走まさみず)