津波対策、国の責任否定 「原発事故を回避できなかった可能性」 - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000140.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1325-16/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000140.html


東京電力福島第一原発事故福島県から千葉県などに避難した十八世帯四十五人が、国と東電に計約二十八億円の損害賠償を求めた集団訴訟の判決が二十二日、千葉地裁であった。阪本勝裁判長は「国は巨大津波を予測できたが、対策を講じても事故を回避できなかった可能性がある」などと述べ、国への請求を退けた。東電に対しては、十七世帯計四十二人に計三億七千六百万円を支払うよう命じた。
全国で約三十ある同種訴訟のうち、初判決となった三月の前橋地裁判決は、国と東電の責任を共に認めており、二件目の今回は異なる判断が示された。賠償額については、故郷の生活を丸ごと奪われた「ふるさと喪失」に対する慰謝料を事実上認め、これまで東電が支払ってきた金額を上回る支払いを命じた。三件目となる来月十日の福島地裁判決が注目される。
判決理由で阪本裁判長は、巨大津波が予見できたかどうかについて、「政府の研究機関が二〇〇二年に公表した長期評価に基づき、国は遅くとも〇六年までに高さ一〇メートル超の津波を予測できた」と述べた。
ただ、非常用電源の高台設置などの対策を講じたとしても「津波の規模の大きさなどから、原発事故を回避できなかった可能性がある」と指摘。国が〇六年時点で、全電源喪失の回避措置を東電に命じなかったことが、著しく合理性を欠くとは認められないとした。
一方、慰謝料について、原告は避難生活に伴う故郷の自然豊かな生活や人間関係を丸ごと奪われた「ふるさと喪失」分として一人二千万円を請求していたが、判決は原告三十六人にそれぞれ一千万〜五十万円を認めた。住み慣れた平穏な生活の本拠からの避難を余儀なくされ、日常生活を続けることを著しく阻害された精神的苦痛は、慰謝料として賠償されると指摘した。
千葉訴訟では、政府の地震調査研究推進本部(推本)が〇二年に公表した津波地震の長期評価の信頼性や、国が東電に津波対策を取らせるべきだったかなどが争点だった。長期評価で推本は「福島沖を含む日本海溝沿いでマグニチュード(M)8級の津波地震が三十年以内に20%程度の確率で発生する」と予測していた。

◆国の責任認めず遺憾
<原告の弁護団長の福武公子弁護士のコメント> 国の責任を認めなかったのは遺憾で、控訴する。ふるさと喪失慰謝料の考えを認めたのは良かったが、金額には不満。認められた慰謝料額などを細かく分析し、今後どの範囲で控訴するか検討したい。
◆心からおわびする
東京電力のコメント> 当社原発の事故により、福島県民の皆さまをはじめ、広く社会の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、あらためて心からおわび申し上げます。千葉地裁判決の内容を精査し、対応を検討してまいります。

原発・千葉訴訟 論理が後退している - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000143.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1326-04/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000143.html

津波を予見できた。それは千葉地裁も認めたが、事故を回避できなかった可能性がある−。福島第一原発事故の損害賠償を求めた判決は、三月の前橋地裁判決から論理が大きく後退した。残念だ。
不当判決」と原告側弁護士は法廷を出て述べた。それは判決の論理が、原告側が主張したものとは全く違っていたからだ。津波と事故の因果関係から、国や東京電力に法的責任があることを明確にすることだ。
三月の前橋判決では「地震津波は予見できた」と認めたし、「一年でできる電源車の高台配備やケーブルの敷設という暫定的対策さえ行わなかった」と東電の対応のずさんさを指摘していた。つまり、経済的合理性を安全性に優先させたという構図を描いていた。
ところが、千葉地裁の論理は異なる。例えば十メートルを超える津波が来ることは予見できたと認めても、当時は地震対策が優先課題だったとする。津波の長期評価には異論もあったから、対策を講ずる義務が一義的に導かれるとはいえない−。こんな論法を進めるのだ。
判決はさらにいう。仮に原告がいう対策をとったとしても原発事故に間に合わないか、結果的に全電源喪失を防げなかったかもしれない。いずれにせよ原発事故は回避できなかった可能性もある−。
裁判官がこんな論理を使って、全国各地の原発の再稼働を認めていったらたまらない。原発事故は一回起きてしまったら、もうそこには住めなくなる。放射能がまき散らされて、どんな被害が起きるのか、いまだに不明な状況なのだ。
十メートルを超える津波が来る。そんな予見ができたのなら、ただちにその対策をとる。全電源喪失に至らないよう、考えうる万全の備えをする。それが常識ではないか。千葉地裁の論法を使えば、津波が予想されても、別の優先課題があれば津波対策をしなくてもよくなってしまう。何とも不思議な判決である。
福島の原発近くに住んでいた人々は、まさか事故が起きるとは思わなかった。平穏な暮らしだった。原告が求めていた「ふるさと喪失」の慰謝料については、「事故と因果関係のある精神的損害として賠償の対象となる」(千葉地裁)と述べた。当然である。
原発事故の同様の訴訟は全国約三十件あるという。一件目が前橋、二件目が千葉だ。被害は広く、継続し、深刻である。不可逆的でもある。裁判官にはその重みを知ってほしい。

北朝鮮と日米韓 軍事衝突防止に総力を - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000142.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1327-47/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000142.html

米国と北朝鮮の指導者による「言葉の戦争」が止まらない。対話がないままでは東アジアで軍事衝突が起きる恐れがある。日米韓は経済制裁を強めながらも、衝突防止に総力を挙げねばならない。
国連総会の会場で、どよめきが広がった。トランプ米大統領が演説で、核、ミサイル開発を続ける北朝鮮を「ならず者」と非難し、「米国と同盟国の防衛のためには、北朝鮮を完全に破壊する」と述べたからだ。さらに北朝鮮と取引する企業に制裁を科す大統領令にも署名した。事実上の「経済封鎖」を目指すものだ。
金正恩労働党委員長は自身として初の声明を発表し、「史上最高の超強硬措置の断行を慎重に考慮する」と述べた。国連総会に出席中の李容浩外相は記者団から超強硬の意味を聞かれ、おそらく水爆実験を太平洋上で行うのではないかと語った。
トランプ政権の高官らは軍事攻撃から対話まで異なる趣旨の発言をしているが、大統領自身の感情的な言い方が最も危うい。米朝双方が相手の意図と行動を読み誤る危険性が増したと、深刻に受け止めざるを得ない。
ニューヨークでは日米韓の首脳会談が開かれ、北朝鮮に最大限の圧力をかけていくことで一致したが、政策調整の必要性も確認した。文在寅政権が北朝鮮に対する八百万ドルの人道支援を打ち出したことに、圧力を優先する日米が疑問を呈したためだ。
北朝鮮と米韓は軍事力を誇示してにらみ合う。もし偶発的な衝突が起き、対応を誤れば本格的な交戦になりかねない。まず韓国と北朝鮮の軍当局間の通信回線を復活させ、緊急時の連絡網を築くことが急務である。
核、ミサイルを議題とする本格的な米朝交渉は現段階では難しいとみられる。しかし、国連代表部を置くニューヨークで高官レベルの接触はできる。双方の考えを正確につかみ誤解を解くためにも必要なことだ。
安倍晋三首相は総会演説で「対話は無に帰した」と断言したが、軍事衝突を防ぐためにも日米韓が結束し、中国とロシアにも働きかけて北朝鮮を交渉の席に着かせる努力が欠かせない。
 これまで北朝鮮情勢に比較的関心が薄かった欧州連合(EU)諸国も、ドイツやフランスが対話による解決を呼び掛け、スイスは会談場の提供など仲介をしたいと名乗り出た。困難でも対話の道を探る努力を続けていきたい。

1400人の違法残業ゼロに=東京五輪の指名停止恐れ−電通初公判で検察指摘:時事ドットコム (2017年9月22日)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017092201058&g=soc

大手広告代理店電通の違法残業事件で、東京五輪パラリンピック関連事業の入札指名停止を恐れ、同社が無効と知らずに残業時間に関する労使協定(三六協定)の改定を繰り返していたことが22日、分かった。サービス残業が横行した結果にもかかわらず、約1400人いた違法残業の社員がゼロになったとするなど、ずさんな労務管理の実態も判明した。
東京簡裁で同日に開かれた初公判の冒頭陳述で、検察側が明らかにした。
冒頭陳述によると、電通は2014年6月に関西支社が労働基準監督署から違法残業で是正勧告を受けた。副社長ら幹部は指名停止処分などで東京五輪関連の受注機会を失う事態を懸念した。
このため、例外的に認められる残業を25時間から50時間に増やすなど、三六協定を2回改定した。ただ、同社の労働組合は社員の過半数で組織されていないため、協定自体が本来無効だった。
電通では社員がコンピューターに勤務時間を入力して申告するが、違法残業していた社員は14年度で毎月約1400人に達していた。
同社は増員や業務量の見直しなど抜本的な対策を取らないまま、15年度中に違法残業をゼロとする方針を決めた。同年10月に本社では違法残業は表面上なくなったが、実際は残業代が支払われないサービス残業が繰り返されていたという。
山本敏博社長は被告人質問で、検察官から形式的な対策だったのではないかと問われ、「その通りです」と返答。「労働時間短縮とサービス品質向上が両立しないとの思い込みが社内全体にあった。(事件後は)社員一人ひとりの残業時間を毎日管理するよう改めた」と述べた。

電通違法残業で即日結審 高橋まつりさん母「働く人の命、絶対守って」 - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000139.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1328-38/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000139.html

広告大手電通(東京)の違法残業事件で、労働基準法違反罪に問われた法人としての電通に対する二十二日の東京簡裁での初公判。山本敏博社長は「深く反省している」と謝罪した。検察は罰金五十万円を求刑し、即日結審した。判決は十月六日。過労自殺が労災に認定された新入社員高橋まつりさん=当時(24)=の母幸美さん(54)は公判後、厚生労働省で記者会見し、電通が再発防止策を着実に実行するようくぎを刺した。 (岡本太)
「社長をはじめ、すべての従業員が強い意志を持ち、労働環境の改善に取り組んでいってほしい」。傍聴席で山本社長の発言を見守った幸美さん。高橋さんが入社直前の二〇一五年三月、卒業旅行で訪れた米国で撮ったという写真とともに記者会見に臨んだ。「公の裁判で電通の法律違反が裁かれたことは感慨深いものがあった。ただ娘は帰ってこず、むなしさもある」と、言葉をしぼり出した。
公判で検察は、一四年度に労使協定の上限を超える長時間労働をした社員が月千四百人前後いたことなどから、長時間労働がまん延していたと説明。度重なる是正勧告に対し、長時間労働を改善するのではなく、長く働いても違法とならないよう協定の上限を引き上げる「小手先だけの対応に終始した」と指摘した。その上で「労働者が被った精神的、肉体的疲弊は想像に難くない」と言及した。
幸美さんはハンカチで目元をぬぐいながら、公判でのやりとりを聞き入った。その時の心境を聞かれ、「遺族の気持ちを代弁してもらえた」と振り返った。
山本社長が再発防止に向けて「問題点を根本から見直す計画を策定しており、順次実行する」とした点については、「にわかに社長の言葉を信じることはできない。立派な計画を作っても、実行しなければ意味がない」と話し、着実な改革の推進を求めた。
電通事件を契機に議論が加速した「働き方改革」を巡る議論は、衆院解散・総選挙によって先送りになる公算が大きい。幸美さんは「どうなっても働く人の命は、後ろで生きている家族のためにも絶対守っていかないといけない。議論を中断せず、継続してほしい」と語気を強めた。

(筆洗)「過労死」という言葉 - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092302000141.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1329-32/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2017092302000141.html

「過労死」という言葉が、社会に突きつけられたのは、そう古いことではない。「急性死」などと呼ばれていた過重な労働の末の死に先駆的に取り組んでいた関西の医師らが、『過労死』と題した本を、一九八二年に出版したのが始まりとされる。
当時を知る松丸正弁護士は、ふり返る。「最初に、この言葉を聞いた時は違和感がありました。これは特殊な労働現場の問題で、それほど一般的な問題ではないのではないかと」
しかし、「過労死」という言葉は、根付いた。「思ったより、根が深く、広い問題でした。かつては四、五十代からの相談が多かったが、最近は若者の過労自殺をめぐる相談が増えています」と松丸弁護士は話す。
たとえば…岐阜県内の病院で勤めていた二十六歳の青年は、時間外・休日の労働時間が月百時間を超える日々を三カ月送った末に、自ら命を絶った。
彼は、こういうメールを送っていたという。<もう生きてることって何なのかわからない…><体がいくつあっても足りない仕事の毎日…。この先に未来はない…><今日で終わりにしようと思います>。メールの宛先は、自分自身だった…という事実が、あまりにも悲しい。
「過労死」という言葉を三十五年前に世に問うた医師らは、「この言葉が一日も早く死語になってほしい」と願っていたという。そうしなければならない言葉である。

中3の15%、短文も理解困難 教科書や新聞で読解力調査 - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000119.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1330-19/www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201709/CK2017092302000119.html

短い文章から事実を正しく理解する「基礎的読解力」について、国立情報学研究所新井紀子教授や名古屋大学などのグループが、全国の小中高校生や大学生、社会人らを調べたところ、多くの中学生の読解力に問題があることが分かった。中学卒業までの読解力が将来に影響するという。
調査では、中学や高校の教科書や、東京新聞などに掲載された記事など数百の題材をもとに問題を作り、コンピューターで無作為に出題した。
三十分間でできるだけ多く解いてもらい、内容を正しく把握できているかを調べた。昨年から今年にかけて、全国の約二万四千人に実施した。問題はすべて選択式で、文章の意味が分かれば、知識がなくても解ける。
その結果、中学三年生の約15%は、主語が分からないなど、文章理解の第一段階もできていなかった。約半数が、推論や二つの文章の異同などを十分に理解していなかった。
また、基礎的読解力は中学では学年が上がるにつれて緩やかに上昇するが、高校では上昇しなかった。高校の教科書が理解できず、力が伸びていない可能性があるという。基礎的読解力と進学できる高校の偏差値との間には、強い相関があった。
新井教授は「基礎的な読みができていないと、運転免許など資格の筆記試験にも困難を伴うと予想される。中学卒業までに中学の教科書を読めるようにしなくてはならない」と話した。
グループは今後も調査を継続し、基礎的読解力に困難を抱える子どもの早期発見や支援策の検討に役立てる。分かりやすい教科書作りなども提言していく。 (小椋由紀子、吉田薫)

幼児教育無償化、なぜ公約に 家計軽減で消費に期待 - 東京新聞(2017年9月23日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201709/CK2017092302000131.html
https://megalodon.jp/2017-0923-1323-38/www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201709/CK2017092302000131.html

安倍晋三首相は来月に予定される衆院選自民党の公約に、財政赤字の削減に使う予定だった消費税の増税分を、幼児教育の無償化などの財源に充てることを掲げる考えです。教育無償化は、民進党前原誠司代表も必要性を訴えています。選挙戦で両党の看板政策になりそうな政策について、想定される効果と副作用についてまとめました。 (桐山純平)

Q 無償化の対象は。
A 小学校に入学する前の子どもが通う幼稚園や保育園の保育料です。内閣府の試算では、現在通っている子ども全員の保育料を無料にすると、一兆二千億円が必要になります。
Q 無償化の狙いは何ですか。
A 子育て世帯の負担軽減です。負担が減れば、消費が増えるのではないかという思惑も政府にはあります。SMBC日興証券の試算では、無償化で負担が約一兆円軽くなり、その半分が消費に回ると、実質国内総生産(GDP)を0・1%押し上げます。
Q 教育そのものへの効果は。
A 約五十年前の米国の研究では、就学前に幼児教育を受けた子どもは、我慢強さや協調性などIQ(知能指数)で測ることができない能力が高まり、教育を受けていない子どもに比べて将来の所得が高くなるという結果が出ました。文部科学省はこうした研究結果を基に「幼児教育の効果は高い」と説明します。
一方、幼児教育の無償化は所得が低い層から段階的に進んでおり、五歳児で96%もある日本の就園率をこれ以上高くするのは難しいとの見方もあります。そのため、教育効果は限定的になると反論する専門家もいます。
Q 教育格差の解消にはつながるの。
A 段階的な無償化が進んでおり、全面無償化の恩恵はむしろ所得が高い人ほどあります。余裕のある世帯が無償化で浮いたお金を習いごとなどに回せば、格差が広がる可能性も指摘されています。
Q 無償化の副作用はほかにもありますか。
A さらなる増税など将来世代の負担が増える可能性があります。安倍首相は二〇一九年十月に予定している消費税率8%から10%への引き上げによる増税分の一部を無償化に充てる考えです。だが、この増税分はもともと、借金漬けになっている国の赤字を減らすために使われる計画でした。赤字削減の予算が減ることで赤字が膨れ上がれば、さらに増税ということになりかねません。

対北朝鮮政策 圧力は手段にすぎない - 朝日新聞(2017年9月23日)

http://www.asahi.com/articles/DA3S13146830.html
http://archive.is/2017.09.23-032938/http://www.asahi.com/articles/DA3S13146830.html

圧力の連呼で解決できるほど朝鮮半島問題は単純ではない。危機をあおることなく、事態を改善する外交力こそ問われているのに、日米首脳の言動は冷静さを欠いている。
ニューヨークの国連総会での一般討論演説である。各国が北朝鮮を批判し、国際社会として懸念を共有したのは前進だ。
しかし、当事者であるトランプ米大統領と安倍首相の強硬ぶりは突出し、平和的な解決をめざすべき国連外交の場に異様な空気をもたらした。
「米国と同盟国を守らなければならない時、北朝鮮を完全に破壊するほか選択肢はない」(トランプ氏)。「対話による問題解決の試みは、無に帰した」「必要なのは対話ではない。圧力だ」(安倍氏)。
安倍首相は、続く日米韓の首脳会談後も、「最大限の圧力」を記者団に強調した。
確かに今は、北朝鮮への国連制裁を各国が一致して履行すべき時である。核・ミサイルの開発を断じて許容しない警告は、発信し続ける必要がある。
しかし、圧力はあくまで対話に導き出すための手段にすぎない。日本を含む周辺国に甚大な影響をもたらす武力行使の選択肢はありえず、どうやって交渉での沈静化に落着させるかの道筋を練ることが必要だ。
ところが安倍首相からは、そのための重層的な政策がうかがえない。軍事力を誇示するトランプ氏に寄り添い、対話の扉を閉ざすような発言に終始するのは思慮に欠ける。衆院選をにらんで脅威を強調する思惑を詮索(せんさく)されても仕方あるまい。
そもそも北朝鮮問題の流れを顧みれば、事態の悪化の原因を「対話の試み」だけに求めるのは誤りだ。日米韓の対応として圧力一辺倒だったり、あるいは無視を続けたりした時期もあったが、事態は改善しなかった。
圧力と対話の双方を駆使する方策を紡ぎだし、北朝鮮政権と交渉を重ねるしか道はない。
マクロン仏大統領は「売り言葉に買い言葉で圧力を増すのではなく、緊張を緩め、人びとを守らねばならない」と米メディアに語り、交渉を導く努力を呼びかけた。国際社会が求めるのは忍耐を伴う外交努力なのだ。
安倍首相が今すべきは、荒い言動を続ける米大統領と、同胞との対話を求める韓国大統領との橋渡し役を務め、日米韓の結束の強化を図ることだろう。
乱雑な舌戦や一方的な対話拒否を続けるだけでは、打開の糸口はつかめない。国連決議の実行を果たしつつ、交渉の接点を探る知恵が求められている。