00年代に発売されたライトノベル関連本を振り返る


基本的にはライトノベルメインのもののみ。これだけ関連本が出てて「ライトノベル」じゃなく「ラノベ」っていう略称をタイトルに冠したものって一冊もないのなー。

ライトノベル完全読本日経BP社)

ライトノベル完全読本 vol.3 (日経BPムック)


2004年7月に第一号発売。三号で終了。


インタビューやらランキングやら漫画やら雑多な内容は好きだった。日経BPらしく?個別の作品よりは業界全体の動向とか分析とかそんなものに力を入れてて、背伸びしたいオタク(自分とか)向けだった気がする。おかゆまさき×大亜門とか夢枕獏×秋山瑞人の対談辺りはかなり趣味が入ってたような気も。創刊号はガンダムの比重がやたら高い。作家と読者からアンケートを募る「日本ライトノベル大賞」を立ち上げようとしたが、結局実現せず。創刊号の細谷正充による「ライトノベル書評宣言」はちょっとした波紋を呼んだ。

このライトノベルがすごい!(宝島社)

このライトノベルがすごい! 2010


2004年11月第一号発売。以降、毎年1冊発行されている。


読者から募った作品、作家、イラストレーター等のランキングがメイン。ランキングに入ったシリーズに「このラノ○○位!」の帯が巻かれるなど、既に業界にある程度の地位を確立している感じ。編集者により依頼されたWeb協力者や一般人から選んだモニターで票の重みが違うシステムには批判もある。


これに関してはまず宝島社に「このミステリーがすごい!」という同趣旨のランキング本が存在し、そのタイトルをパロった、ライトノベル系個人サイト主催の「このライトノベルがすごい!」(web版)という企画が生まれ、最後に同社が同誌を刊行したことでweb版は「ライトノベル・ファンパーティー」と名前を改めた、という経緯があるみたい。


宝島社の兄弟誌(というと「このミス」とかになっちゃうから、なんだろう、親子誌?)として「このライトノベルがすごい! SIDE-B」「このライトノベル作家がすごい!」「ライトノベルキャラクターズ完全ファイル」も。


このムックから生まれた『このライトノベルがすごい!』大賞が現在第1回選考中。

ライトノベル☆めった斬り!(太田出版

ライトノベル☆めった斬り!


2004年12月発売。著者は大森望三村美衣


ライトノベルと近縁のSF・ファンタジー分野で特に活動してきた二人の書評家による対談形式で、ライトノベルの誕生以前から現在(といってももう5年以上前だけど)までの流れを追う。書評と対談(あと年表)の2段構えってのが良かった。色々偏向はあるものの、これまで読んだ商業出版物の中では、ある程度詳細なラノベの歴史はあれが一番掴めたと思う。オールタイムベスト的な書評本としてもなんだかんんだで重宝した。そろそろ加筆して文庫化しないかな。ちなみにこの本で大森望が冗談半分で(?)語ったところによると、ライトノベル第一号は平井和正『超革命的中学生集団』らしい。


ライトノベル書評家としては大森望より三村美衣の方が好きです。でも○○○さんはもーっと好きです。

ライトノベル「超」入門ソフトバンク新書)

ライトノベル「超」入門 [ソフトバンク新書]


2006年4月発売。著者は新城カズマ


蓬莱学園」「サマー/タイム/トラベラー」「15×24」などの著者によるグダグダした語り(褒め言葉)がウリの解説本。主に「ライトノベルとはどういうものか」ということを著者の言うところの「ネクタイびと」に対して解説している、という体裁ではあるのだけれど、まあ、ライトノベルを知ってた方が面白いのは間違いない。

ライトノベル文学論(NTT出版

ライトノベル文学論


2008年10月発売。著者は榎本秋


この中では一番初心者向けを志向しているような気がする。ので、それなりにライトノベルを―――というかライトノベルに関する文章を読んでる人にとっては退屈に感じるかもしれない。
基点を『スレイヤーズ』(1990年シリーズ開始/厳密には89年に雑誌初掲載)に置いているのが特徴。


榎本秋の他の著作としては『ライトノベル最強!ブックガイド 少年系』(NTT出版)、『はやわかり!ライトノベル・ファンタジー』(小学館)、『ライトノベル・データブック』(雑草社)など。

ライトノベル研究序説(青弓社

ライトノベル研究序説


2009年4月発売。著者というか編者は一柳廣孝及び久米依子


複数の著者がメディアミックス、児童文学、ジェンダーなど様々な視点からライトノベルを語る論文集。その形式から、全体の評価っていうのはちょっと下しにくいけど、ラノベ好きのオタク、というよりラノベも好きな学者さんがそれぞれの専門分野にラノベを落とし込んで語っているという感じかな。個人的には、児童文学とライトノベルの関係に関して、那須正幹を詳しく論じている辺りは面白かった。

雑誌等

クイック・ジャパン (Vol.54)


ドラゴンマガジン(これは隔月刊になってからだったかな)、ザ・スニーカーSFマガジン活字倶楽部は毎回書評を掲載。
朝日新聞は2005年11月から2009年9月にかけて月イチで細谷正充による書評「トライライトノベルス」を掲載していた。
クイックジャパンは2004年の54号ライトノベル特集において「冲方丁×乙一によるライトノベル100選」を掲載し、話題になった。
ダ・ヴィンチは「ライトノベル読者はバカなのか?」「ライトノベルは終わったの?」など、時々挑発的なタイトルの特集を組んでいる。
創が2006年に「ライトノベルはアニメ界の救世主か」という記事を組んだように、00年代はアニメの原作となる作品が枯渇したと言われる中、ライトノベル原作の作品が増えた。
2003年に創刊したファウストは、ことライトノベルにおいては上遠野浩平を基点とする史観を展開している。
最近は年間ベスト的なムックなどでライトノベルのコーナーをもうけるところも。

その他

キャラクター小説の作り方 (角川文庫)


実創作本としては大塚英志『キャラクター小説の作り方』(講談社現代新書・角川文庫)、冲方丁冲方丁ライトノベルの書き方講座』(冲方式ストーリー創作塾の改題/宝島社)、ガガガ文庫編集部『ライトノベルを書く!』(小学館)、浅尾典彦&ライトノベル研究会『ライトノベル作家のつくりかた』(青心社)、榊一郎五代ゆう『『五代ゆう榊一郎の小説指南』(ホビージャパンMOOK)、榎本秋ライトノベルを書きたい人の本』(成美堂出版)『ライトノベルを書こう!』(宝島社)、ライトノベル法研究所『ライトノベル創作教室』(秀和システム)など。


上に挙げたものの中では、『キャラクター小説の作り方』は、どちらかというとキャラクター小説(≒ライトノベル)がどういったものか、この国の「文学」に対してどうあるべきか、どうあってほしいか、といったようなラノベ論の印象が強い。ザ・スニーカー連載の後、2003年2月に講談社現代新書で単行本化。後に角川文庫入り。自分が紙媒体で初めて読んだライトノベル評論。


作家の追想録的なものとしては久美沙織『コバルト風雲録』(本の雑誌社)、花井愛子『ときめきイチゴ時代―ティーンズハートの1987‐1997』(講談社文庫)、あかほりさとる『オタク成金』(アフタヌーン新書)など。


菅聡子『<少女小説>ワンダーランド』(明治書院)は、明治から平成までの少女小説を網羅。


アニメノベライズのガイドブックとしては坂井由人・坂井直人『アニメノベライズの世界』(洋泉社)なんてのもあるけど、紹介する作品が70〜80年代メイン(一番新しいのが『Vガンダム』とかだったような)という点に注意。


東雅夫石堂藍『日本幻想文学作家辞典』(国書刊行会/1991年に刊行された『日本幻想作家辞典』の増補改訂版)は、ライトノベル作家も多数網羅している。またファンタジー小説のガイドブックなどでライトノベルレーベルから出版された作品が取り上げられることもある。ただ、傾向としてどうしても『十二国記』『エフェラ&ジリオラ』など、真面目に(というのも御幣があるんだけど、まあニュアンスとしては分かるでしょ?)ファンタジーしてる作品が多くなりがちな気はする。


アニメ、漫画、ゲームなど含むオタク文化を取り扱ったものとしては、ちょっと把握し切れてないんだけど、大塚英志以外では東浩紀斉藤環笠井潔、あと最近では前島賢といった人たちがライトノベル的なもの(の中でも特にセカイ系)に触れていた。


また、近年においてはライトノベルそのものをネタにしたライトノベルも増えているみたい。


これから読みたいものとしては、「完全読本」のような雑多な内容のもの、オールタイムベスト的なもの、ソノラマ回顧本などかなあ。