岡百合子『朝鮮・韓国の歴史』

岡百合子『朝鮮・韓国の歴史』

 長い間、中・高校で社会科の教師をしていて在日朝鮮人の作家と結婚した岡さんが、本物の朝鮮・韓国史を教えようと苦心して研究して書いた。「中・高校生のための」という題が付けられているが、中身は深い。岡氏がいうように、朝鮮の歴史は侵略の連続で古代中国・漢や唐から始まって契丹女真、モンゴル、倭寇豊臣秀吉、清。近代には日本、そして朝鮮戦争まで凄まじい。だが岡氏の本を読んでいると、苦難の歴史に強さと明るさを感じるのだ。構造的には古代三国時代・高麗時代と朝鮮王朝時代、近代植民地時代、南北分裂時代の4つに分けられるだろう。古代三国・統一新羅は先進国として日本に大きな影響を与えた。高麗時代は、仏教や高麗青磁などやはり先進国だったが、モンゴルの侵略で崩壊する。
私は14世紀から19世紀まで続いた朝鮮王朝時代に興味を持った。ここに「朝鮮的なもの」の根底があると思ったからだ。朱子学イデオロギー両班、中人、常民、賎民の階層社会が成立し、科挙制と党争が熾烈を極めたし、新興商人が登場しその活動から「実学派」が出てくる。秀吉の侵略の抵抗も朝鮮を創り出したし、国家プロジェクトとして新しい文字(ハングル)をつくったが、これは合理的文字である。「春香伝」やパンソリの誕生の章も読ませる。
16世紀を「両班の世紀」として考察し、科挙を中国と比較し「族譜」の成立と親族ネットワークの成立を論じた『明清と李朝の時代』(「世界の歴史」12巻、岸本美緒・宮嶋博史著)も面白い。この本の「朝鮮伝統社会の成立」では、父系血縁集団とマウル(村)の成立とチャンジ(場市)の成立を分析し、「小中華主義」を論じている。実学と天主教(キリスト教)の成立も、朝鮮を知る重要な点だと思う。宮嶋氏のいう朝鮮の家、マウル、中間集団の流動性は日中より激しく、統一的アイデンティティの欠如がかえって民族主義に反漢、反日を強調せざるを得ないが、逆にそれが世界的柔軟性にもなるという指摘は重要だ。(平凡社ライブラリー