21世紀初めの話

承前*1

雨宮処凛*2「私が「死にたい」と言ってた頃〜座間の9人殺害事件を受けて〜の巻」http://blogos.com/article/259184/


21世紀初頭の「生きづらさ系」について。


 20代の頃、私は自殺系自傷系サイトのオフ会にたびたび参加していた。2000年頃、ネットが普及し始めたばかりの時期の話だ。参加者の多くが10代、20代の女性。居酒屋で数十人がわいわい語る光景は、端から見たらただの若者の飲み会に見えたと思う。だけど、ほとんどの参加者の手首にはリストカットの生々しい傷跡があり、中には二の腕や太もも、果ては全身にまで傷が及んでいる人もいた。だけど、みんなの顔は一様に明るかった。

 ネットの登場により、生まれて初めて自分以外の「死にたい人」と出会えた興奮を、誰もが口にした。学校や職場の友人には絶対引かれるから、口が避けても「死にたい」なんて言えない。だから普段は必死で元気な自分を演じている。だけどそうすればするほど、死にたい気持ちは募っていく一一。多くの人が、そう口にした。そして合言葉のように「うちら、生きづらさ系だよね」と言い合っては笑った。

 そんな繋がりの中、惨めでカッコ悪くて弱い自分を晒し合えるかけがえのない友を得た人もいれば、その後、自ら命を絶った人もいた。オーバードーズ(薬の過剰摂取)を繰り返していたことで心臓が弱り、自殺か事故かわからない形で亡くなった人もいれば、オーバードーズの果てに、吐瀉物を喉に詰まらせて窒息死した人もいた。オフ会に参加する頃には大分おさまっていたものの、私も10代からリストカットを繰り返していたし、オーバードーズで胃洗浄を受けたこともあった。

寝逃げ」という言葉は知らなかった;

「地獄」と言われる胃洗浄をしたことで、それ以来、オーバードーズはしていなかったけれど、オフ会に参加する人たちの多くはオーバードーズを繰り返していた。彼女たちの中には、死ぬためではなく、「寝逃げ」するためにするのだと言う人がいて驚いたのを覚えている。辛い現実から強制的に意識をシャットダウンし、人生を「早送り」するために薬をたくさん飲んでひたすら寝続ける。リストカットをすることで心の痛みを身体の痛みに置き換えて誤摩化し、精神科から処方された薬を大量に飲んで「寝逃げ」することで、なんとかやり過ごす。そうやって「生き延びて」いる人たちが、多くいた。
1990年代後半に「生きるハードル」が高くなったこと;

彼女たちの死にたい背景には、様々なことがあった。親からの虐待を語る人もいたし、子どもの頃からのいじめの後遺症に苦しむ人もいた。正社員として入った会社がブラックで、恐ろしいほどのノルマと長時間労働で心も身体も壊された人もいたし、就職氷河期の中、「100社落ちる」ような経験をした人もいた。職場でのいじめによってうつとなり、退職した人もいた。失業から一人暮らしを維持できなくなり実家に戻り、連日、うつなどに理解のない親から「いつまでもダラダラしてないで早く働け」と責められ、親子間の対立が深刻な状況になっている人も多くいた。私が20代前半の頃(90年代後半)に働いていたキャバクラの同僚にも手首に傷がある子は何人かいたし、コンビニに行けば若い店員の手首に傷があることも珍しくなかった。

 90年代後半から00年代にかけて、リストカットに関する書籍は多く出版され、社会問題になったりもしていた。その背景には、「生きるハードル」が90年代に一気に上がったこともあるように思う。バブルが崩壊し、就職氷河期は深刻化し、リストラの嵐が吹き荒れる中で労働環境は過酷になり、非正規化も進み、それまでの「学校を出たらとりあえず就職する。就職さえすれば、周りは認めてくれる」という構図はあっさり崩壊していた。

 就職などをしなくても生きられる「隙間」はこの社会からどんどん奪われ、企業社会は「どんなに長時間労働をしても倒れない強靭な肉体とどんなパワハラを受けても病まない強靭な精神を持った即戦力」しか必要としなくなり、その上、プレゼン能力とコミュニケーション能力と生産性の高い人間以外はいらない、という露骨なメッセージを発し始めた。ちょっと不器用だったり引っ込み思案だったりする人間の行き場が、軒並みなくなり始めた頃。そしてその「生きるハードル」は、今に至るまで上がり続けている。


事件を受けて、自殺を仄めかすネットへの書き込みの削除や通報を求める声もある。政府の関係閣僚会議では、自殺に関する不適切なサイトや書き込みへの対策強化について検討されるという。

 だけど、多くの人が指摘しているように、「死にたい」は、貴重なSOSだ。普段から、リアルな関係で弱音を吐けていれば、それが当たり前のことだったら、こんな事件は起きなかった。禁止されるべきは「『死にたい』という書き込み」ではなく、弱音を禁ずるような圧力ではないのか。

 20代、30代の死因の1位はもうずーっと前から「自殺」だ。そして08年からは、11年をのぞき、15〜39歳の死因の1位が自殺である。先進国の中では突出して高い数字で、私たちは若い世代がもっとも自殺で死にやすい国に生きている。

 リストカットオーバードーズをし、「死にたい」と散々言ってきた私が生き延びられたのは、自分と同じように「死にたい」人たちとたくさん出会ったからだ。

 今だって、死にたいと思う瞬間はある。これからだって、そんなことは無数にあるだろう。だけど、私が「死にたい」と口にすれば引かずに聞いてくれる人たちがいる安心感があるからこそ、生きていられる。

俊寛も見た?

安藤健二「鹿児島県・硫黄島の奇祭をライブ中継 仮面神「メンドン」が大暴れ」http://www.huffingtonpost.jp/2016/08/31/mendon-live_n_11807348.html


とはいっても、昨年の記事。
鹿児島県三島村*1硫黄島*2で「旧暦8月1・2日におこなわれる八朔(はっさく)太鼓踊り」に闖入する仮面神「メンドン*3について。
硫黄島を含む吐噶喇列島は、謂わば「ヤマト文化」の南端、「琉球文化」の北端ということになるのだが(cf. 下野敏見『ヤマト文化と琉球文化』)、以前からその「琉球」でもなく「ヤマト」でもない異国性が気になっていたのだった。さて、硫黄島は平家打倒の陰謀が露見したために流刑になった俊寛僧都*4が流された「鬼界ヶ島」であるとされている。別に「喜界島」というのがあるのだが*5、ここは奄美であり、平安末期には京都の朝廷の支配も及んでいなかったので、流刑地にはなり得なかっただろう。この祭りの発生がどのくらい前まで遡れるのかは知らないけれど、俊寛は「メンドン」を見たのだろうか。また、「メンドン」が訪問者(マレビト)であるとすると、(島にとっては)俊寛も流人として都からやってきた余所者であり、構造的には「メンドン」と同じ位置を有していたといえる。とすれば、「メンドン」のイメージに俊寛が幾分かの影響を与えていたという可能性もまた否定できないのではないか。

日常的?

ふじいりょう*1「「デートでサイゼリヤ」論争再び! トイアンナさん「男性はデートの改善点を永久に指摘されない」ツイートが波紋を広げる」http://getnews.jp/archives/1966402


トイアンナ」という方の発言は、


女性はサイゼだろうが吉野家だろうが初デートに誘われたら「うん…」とついていき、それなりに楽しそうに振る舞い、帰ってから「ありえないよね?」と友達に確認して静かにフェイドアウトするので男性はデートの改善点を永久に指摘されないという問題がある。


トイアンナ (@10anj10) 2017年11月12日
https://twitter.com/10anj10/status/929676365384663043

「再び」ということだけど、最初の論争は今年の7月だったのか*2
かなり以前に「デート」においては「非日常」の演出が重要だみたいなことを言ったことがあるのだが*3、「サイゼリヤ*4だとか「吉野家*5というのはあまりに日常的だということなのだろうか。つまり、「デート」で「サイゼリヤ」というと、まざまざと自分の平日を思い出してしまう。でも、生まれてこの方高級レストランしか行ったことがないというお嬢様育ちの人*6にとっては却って、異文化探検というかドジン社会の参与観察というノリで楽しいのかも知れない。さて、日常的すぎてデート・スポットとしてNGなのは、スターバックスタリーズだろうね*7。待ち合わせスポットならともかく、デートのクライマックスにスタバに行くというも考えられない。

腹の中

承前*1

板門店から南へ走った北朝鮮兵士のその後。
朝日新聞』の記事;


逃走兵士、5時間の手術 北朝鮮軍の銃撃、四十数発
ソウル=牧野愛博2017年11月14日11時38分


 南北軍事境界線上にある板門店の共同警備区域(JSA)で韓国側に逃走を図って銃撃を受けた北朝鮮軍の男性兵士が13日深夜まで、京畿道水原(キョンギドスウォン)市の大学病院で5時間にわたる緊急手術を受けた。意識不明の重体で、人工呼吸器をつけて治療を受けている。

 病院側によれば、兵士には5〜6カ所の銃創があった。大部分は弾が貫通しており、臓器の7〜8カ所に損傷が見られたという。兵士の体力が続かないため、手術をいったん終了した。2〜3日安静にした後、数回にわたる手術が必要という。

 国連軍司令部などによれば、兵士は13日午後3時15分ごろ、板門店軍事境界線近くまで小型四輪駆動車で乗り付けた。下車して韓国側に逃走する途中、他の北朝鮮軍兵士4人から四十数発の銃撃を受けたという。

 韓国側は同日午後3時半ごろ、軍事境界線から50メートルほど入った韓国側施設「自由の家」の脇で、北朝鮮側から身を隠すように倒れていた北朝鮮軍兵士を発見。北朝鮮側の銃撃を避けるため、韓国軍兵士3人が地面をはって倒れていた北朝鮮軍兵士に近づき、身柄を確保したという。(ソウル=牧野愛博)
http://www.asahi.com/articles/ASKCG3QVQKCGUHBI00V.html


腸から寄生虫、栄養状態も不良 北朝鮮兵士なお意識不明
ソウル=牧野愛博2017年11月15日19時41分


 南北軍事境界線上にある板門店の共同警備区域(JSA)で北朝鮮軍の男性兵士が韓国側に逃走を図って北朝鮮軍の銃撃を受けた事件で、韓国・亜州大付属病院(京畿道水原市)は、15日午前から約3時間半にわたって兵士に2度目の手術を行った。病院関係者によれば、兵士は依然、意識不明の重体で生命維持装置を付けた状態という。

 1、2度目の手術で、計6発の拳銃や自動小銃の弾を除去した。病院側関係者によれば、兵士の小腸からは最大で27センチになる数十匹の寄生虫が見つかった。未消化のトウモロコシも残っており、栄養状態は良くないという。

 病院側は、大量出血が続いたうえ、寄生虫による臓器汚染がひどかったと分析。今後、致命的な合併症を起こす可能性もあるとしている。(ソウル=牧野愛博)
http://www.asahi.com/articles/ASKCH641ZKCHUHBI02H.html

「大富豪」というのか

朝日新聞』の記事;


警察学校、集団トランプ賭博 20万円得た巡査も



2017年11月15日 18時20分 朝日新聞デジタル
 佐賀県警察学校の寮内でトランプ賭博を繰り返したなどとして、県警が10〜20代の男性巡査12人を書類送検・家裁送致していたことが、朝日新聞の情報公開請求と取材でわかった。

 中には計約20万円を得た巡査もいたという。

 県警監察課によると、12人はいずれも今春に入校。6月中〜下旬にかけて約60回、昼の休憩や夜の自習時間に金を賭けてトランプの「大富豪」をしていたという。県警は6月下旬に情報を得て捜査し、8月25日に12人を単純賭博容疑や非行内容で書類送検したり家裁送致したりした。佐賀地検によると、書類送検された5人のうち4人は不起訴処分(起訴猶予)、1人を家裁送致とした。佐賀家裁は送致された巡査への対応を明らかにしていない。

 県警は賭博を呼びかけた20代巡査を減給10分の1(3カ月)の懲戒処分にした。深く関わっていた別の20代巡査と、中間試験でのカンニングも発覚した10代巡査を本部長訓戒、他の9人と監督責任を問われた上司4人は本部長注意や所属長注意としたが、発表していなかった。賭博を呼びかけた巡査とカンニングも発覚した巡査は依願退職したという。

 牧瀬義昭監察課長は「社会人としてはもちろんのこと、警察官としての自覚をしっかり持たせるよう、教養を徹底するとともに再発防止に努める」とのコメントを出した。(黒田健朗)
http://news.livedoor.com/article/detail/13895478/

これって、「大富豪」というのか。この呼び方は地域的なものなのだろうか、それとも世代的なものなのだろうか。俺が若い頃は「大貧民」と呼んでいたぞ。まあ高校生とか大学生といった若者が合宿とかで集まって「大富豪」或いは「大貧民」をするというのは当然と言えば当然だと言えるだろう。「警察学校」も例外ではない。これで、「警察官」への共感度がアップしたという人もいるのでは?
まあそもそも「単純賭博」の犯罪化の是非については議論もあるわけだ*1。「処分」に引っかかってしまった人は偏に悪法の存在を恨んでくださいとしか言うことができない。
警察内部における「単純賭博」事件ということでは、今年に入って、大阪府警*2と福岡県警*3で発覚しているのだった。

*1:See 「賭博禁止だけど「パチンコ、競馬…実態は解禁済み」麻雀プロ弁護士が問題提起」http://news.livedoor.com/article/detail/13750064/

*2:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170126/1485442820

*3:See http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20170514/1494724036