訪日観光客、約7000円の「インバウン丼」に舌鼓を打つ

クリッピングから
讀賣新聞2024年5月6日朝刊
編集手帳


  今、恨めしいのは円安だ。
  訪日観光客には何もかも割安で、
  約7000円でも海鮮丼に舌鼓を打ち、
  「インバウン丼」なる造語も飛び交う。
  こちらはおいそれと手が伸びそうにない


あなたの言葉はほとんど魔法(あきやま)

クリッピングから
讀賣新聞2024年5月6日朝刊
読売歌壇(俵万智選)
今週の好きな歌3首、抜き書きします。


  熱を保つ瓶を魔法と呼ぶならば
  あなたの言葉はほとんど魔法

        越谷市 あきやま


    【評】「魔法瓶」という思えば大げさなネーミングを活用して、
      あなたの存在感がうまく表現された。
      その言葉は、いつまでも胸を熱くし続ける。


  失恋が全細胞に知れわたる前に
  書類を仕上げなければ

       八王子市 吉村のぞみ


    【評】心のショックや動揺が広がって、
      仕事に支障をきたす前に……というわけだ。
      上の句が、職場を連想させる比喩であることが、
      下の句と響きあって効いている。


  餞別のショコラに付箋紙「好きでした」
  先にください現在形を

          横須賀市 吉目木 令


    【評】別れの挨拶とともに受け取る告白の、
      なんと残念なことか。
      ため息と苦笑まじりの下の句。
      「現在形」がユニークだ。



(万智さんの全歌集をスケザネさんの解説で全貌する選歌集)

私にとっての唐十郎は、こんな死に方までしてみせる「怪人」だった(野田秀樹)

クリッピングから
讀賣新聞2024年5月6日朝刊
追悼 唐十郎さん(野田秀樹



  嘘(うそ)のような話だが、
  唐さんの「死」が、役者でご子息の大鶴佐助から届いた時、
  私はロンドンのテムズ川の岸辺にある移動遊園地の回転木馬の上にいた。
  まさにこれから木馬が回り始める時、
  私が見た携帯電話に、佐助の文字が浮かび、
  何事かと覗(のぞ)いたその先に
  「今、父が逝きました。寺山修司さんと同じ日です」という短い文があった。


  回転木馬が回り始めた。
  「唐十郎の死」という重い言葉を抱えながら、
  上に下にと木馬は動きまわり続ける。
  ロンドンのテムズ川の岸辺、休日の喧噪(けんそう)の中で、
  回転木馬の鄙(ひな)びた音楽を聴きながら、テムズの景色がまわる。
  それはまるで、唐十郎状況劇場時代に、
  上野の公園で見た芝居のロマンティシズムと詩そのものだった。


  私が二十代の頃から続く「唐十郎」との不思議な因縁を思った。
  その因縁は、この紙面に限りがあるので割愛するが、
  その結末は、去年、何十年ぶりかに唐さんが、
  私の芝居を見に来てくれて楽屋に訪れた時
  「野田君さあ、芝居はこうでなくちゃなあ」
  と言ってくれたところで幕を閉じた。
  唐十郎からの誉(ほ)め言葉は、
  私の人生においても格別、特別のものである。


  その楽屋で一緒に写真を撮りつつ指相撲をしたことを
  思い出しながら回転木馬に乗っていたら、
  いつしか目尻に涙が滲(にじ)んでいた。
  私にとっての唐十郎は、
  こんな死に方までしてみせる「怪人」だった。
  その怪人の死の知らせに、
  私は回転木馬の上から「嘘だ」としか返せなかった。

               (劇作家・演出家・役者)






宮城野親方に対する厳しい処分はモンゴル出身であるがゆえの迫害ではないか(和田静香)

クリッピングから
毎日新聞2024年5月4日朝刊
大相撲・宮城野部屋閉鎖を語る(和田静香
過去の例と比べ不公平


  「暴力は本当にダメ。
  絶対。それを見過ごしていたこともダメ」
  と訴えた後、和田さんは
  「でもね、北青鵬は引退し、
  宮城野親方には日本相撲協会から
  2階級降格と報酬減額の懲戒処分が出た。
  その後の部屋閉鎖。
  過去の例からしても処分は公正ではないと思うんです」
  と切々と語る。
  (略)


  では、宮城野親方の処分は重すぎるのだろうか。
  和田さんはうなずいて
  「部屋を閉鎖する処分基準が不明確なのです」と説明する。
  (略)


  現役時代に歴代最多45回の優勝を果たした宮城野親方だが、
  優勝時に観客に万歳三唱を求めるなど
  土俵内外での振る舞いが問題視され、
  過去に処分を3度受けていた。
  引退して年寄を襲名するにあたっては
  「理事長をはじめ先輩親方の指揮命令・指導をよく聞くこと」
  などの条件を守る異例の「誓約書」を求められ、提出した。
  それが今回の処分に影響したとも見られている。


  和田さんは、宮城野親方に対する厳しい処分は
  モンゴル出身であるがゆえの迫害ではないか、
  との疑念を拭えないという。
  協会は21年、親方になれるのは「日本国籍を有する者に限る」
  とする条件の見直しを見送った。
  その際、諮問機関「大相撲の継承発展を考える有識者会議」が
  協会に提出した提言書では、
  外国人力士の「入日本化」という言葉が用いられた。


  和田さんは
  「これは外国出身の力士が相撲を取るには
  日本の文化に染まりなさい、
  というかつての日本の植民地政策に似た考え。
  それらを考えると、宮城野親方に対する処分には
  恣意(しい)的なものを感じる」
  と消えない違和感を口にした。

                  【山崎明子】






井上荒野『照子と瑠衣』(祥伝社、2023)

井上荒野『照子と瑠衣』(祥伝社、2023)を読む。


(装幀:大久保伸子/装画:サイトウユウスケ)


Googleブックスから概要を引用する。


  照子と瑠衣はともに七十歳。
  ふたりにはずっと我慢していたことがあった。
  照子は妻を使用人のように扱う夫に。
  瑠衣は老人マンションでの、
  陰湿な嫌がらせやつまらぬ派閥争いに。


  我慢の限界に達したある日、
  瑠衣は照子に助けを求める。
  親友からのSOSに、照子は車で瑠衣のもとに駆けつける。
  その足で照子が向かった先は彼女の自宅ではなく、長野の山奥だった。


  新天地に来て、お金の心配を除き、
  ストレスのない暮らしを手に入れたふたり。
  照子と瑠衣は少しずつ自分の人生を取り戻していく。
  照子がこの地に来たのは、夫との暮らしを見限り、解放されるため。
  そしてもう一つ、照子には瑠衣に内緒の目的があった―。


    祥伝社WEBマガジン「コフレ」にて
    2021年11月から2022年9月まで連載され、
    著者が刊行に際し、加筆、訂正した作品です。


(こちらは60代女殺し屋の物語)

大丈夫だよ! お迎えにくるから!

クリッピングから
朝日新聞2024年4月27日朝刊別刷be
読者投稿欄「いわせてもらお」


  ◉無邪気なこどもたち

  勤め先の保育園でのことです。
  「◎◎くんのママは?」
  「お迎えにくるよ」
  「▢▢ちゃんのママは?」
  「お迎えにくるよ」。
  ▢▢ちゃんが私にたずねた。
  「先生のママは?」
  「……お空かなぁ」。
  ◎◎くんは
  「大丈夫だよ! お迎えにくるから!」。
  いまお迎えにこられても困るなあ、と思ってしまった。

         (東京都杉並区・延長保育担当・76歳)