彼の哲学の特色は、平均的日常性、つまりは外的環境特に社会環境の中での個人の相互作用から自らの存在を導かないところにある。我々がそれそのものとして「ある」ところの私という個人は、1人につきただ1人、まさに私である。要するに他の誰かに成り代わって人生を送ることは不可能なので、まず自らが存在しているということがどういったことなのかを考えねばならない。それは「私は○○な人間だ」というような、個人の性質の列挙というようなことではない。周囲との比較でもって自らを相対化するというような手法とは全く真逆である。しかし、それは社会の相場に対する無知から生じる独断論でもない。 外的世界との折衝を通して、我々は常に…