正確に読み取れていたら、きちんと肚に収まっていたら、もっと賢くなれていたかもしれない。いや賢いか賢くないかには天分の限界もあろうが、せめて少しは役立つ男になれていたかもしれない。 ブルクハルトの名を知ったのは、学生時分の早い時期だったろう。なにせもっともご厄介をおかけし、酒場への鞄持ちを拝命していた恩師が、ラテンおよび初期フランス文学の一途な学者だったから、まだ教授が素面のあいだには、じつに数多くの歴史家や学者文人についての名と書物について、四方山の噺を拝聴できた。 酒が定量を一滴でも超えると、ほぼ日本語が通じなくなる師だった。そうなってからがむしろ師の本領で、行きつけいづこのママさんがたも、…