失明したとたんに何十万部もの蔵書をもつ国立図書館の館長になったボルヘスが、その時に一体なにをおもったのか、よそごととしてかんがえればそれはシンボリックで、有効なライトモチーフになったかもしれない。すくなくとも、短編小説のネタくらいにはなったのかもしれない。あるいは、そこにはたしかに、詩情が見出されるべきであったのかもしれず、そうではないという方が、魯鈍であったのかもしれなかったが……。だが実際に起こったこととは、もっと単純なことだったはずだ。マッチに火をつけ、その火が消えたというように、数え上げられるごく無機的な事実性のひとつが、そこに生起していただけではなかったか。もちろんそれでも日常はつづ…