2018年、箱根ラリック美術館に保存されているオリエント急行の車内で、シフォンケーキをいただいたことがある。 このときの目的は、美術館の展示を見ることではなかった。あくまでオリエント急行の車内で過ごすこと、そのものだった。 外国の鉄道、とくにヨーロッパの名列車に惹かれる者にとって、ルネ・ラリックが内装を手がけた本物の客車の中で喫茶ができるというだけで、十分すぎるほど訪ねる理由になった。 しかも、この車両は単なる保存車ではない。1988年、「オリエント急行’88」として、はるばるヨーロッパからやって来て、日本全国を走った編成の一員でもある。 そうした来歴を知っているだけに、箱根でこの客車の中に座…