南禅寺の三門に上るという体験がある。 上るにあたっては、観光都市京都として抜け目なく、おそらく人が門に対して払いうる最大限の現金600円を徴収されるのだが、それを差し引いても遥かに素晴らしい体験である。もちろん、南禅寺の境内には三門の他にも様々なみどころがある。魅力的に折れ曲がった廊下を持つ国宝の方丈があり、小堀遠州の作った名庭があり、立派な法堂の天井には今尾景年の蟠龍図もある。国宝や名勝に指定されているような広く評価されている名所ばかりである。しかし、それらのどの作品に接する経験よりも、三門に上るのは心地よいものだった。なぜ三門こそが私にとって特別なのかを考えてみたい。 お寺の門というのはた…