六月の歌舞伎座は六代目中村時蔵襲名興行。萬屋一門にとってはもちろんのこと、歌舞伎界にとってきわめて重要な名前の継承である。くわえて五代目時蔵の中村萬壽襲名、六代目時蔵長男の五代目中村襲名もあわせて披露される。 昼の部のはじめは『上州土産百両首』から。作品としてはわかりやすい人情物で、現代でもひろく共感を得られるであろう作品。台本構成上でもったいないのは序幕だ。ひさびさに再会した正太郎と牙次郎が、じつはふたりとも掏摸になっていて、それと知らずたがいの財布を掏ってしまうという発端。これをなぜ正太郎の語りだけですませてしまうのだろう。幕開きにみじかくその場面は実際に見せたほうが効果的だし、そこから正…