温泉ソムリエの資格を持っていると、「どこがおすすめ?」と訊かれる。答えは「浴槽の写真を見て気持ちよさそうなところ」。良いワインを紙コップで飲んでも真価が半減し、家と同じ湯でも浴槽が広いと気持ちよくなるように、湯よりも器のほうが大切。漫画『蔵の宿』では越前の酒樽の浴槽が旅人を癒す。浴槽はワイングラス。湯の味が大きく変わる。 真に温泉に開眼したのは2016年の秋。カワヅザクラ発祥の地として有名な伊豆の「福田家」という宿だった。同年の8月、仕事を手伝っていた登山家のエヴェレスト遠征に同行した。登山歴1年ちょっとだったが、現地の会計業務や簡単な動画編集を任された。富士山の標高でも頭が痛くなるヘタレなの…