他力とは「仏の意志は絶対で、人はそれに関与しない」と考えるものだ。ぶっちゃけて言うと、人間の意志や努力を無下にする考え方でもあるので、現代の多くの日本人からすると、馴染み難い考え方かもしれない。しかし当時の多くの人たちにとって、この考え方はとても前向きに受け止められたのである。なぜか? 法然の有名な弟子のひとりに「平家物語」にも出てくる、熊谷直実(なおざね)の名が挙げられる。彼は武蔵国・熊谷に住んでいた鎌倉幕府に仕える御家人のひとりで、源平合戦の際に敵将を討ち取っている。しかしこの敵将はこの時、数えでまだ17歳であった童顔の少年・平敦盛だったことに衝撃を受け、出家を志すことになる――というのが…