死地へ 「囲まれた! 」 |飛垣源次《ひがきげんじ》は死を覚悟した。 動くたびにガチャガチャと黒備えの鎧が鳴り、金具は半分近くが落ちて、だらしなく紐が垂れていた。 林の中、ずっと走り続けてきたせいで、具足は痛み、髪は乱れ、落ち武者という風体である。「|斯《か》くなる上は。 」 勇ましく腰の刀に手を掛けたが、脳裏には故郷の風景が浮かんでいた。 1000石の旗本、池田氏に仕えた源次は、後宿村で生まれ育った。 幼い頃から畑仕事を良く手伝い、緑の野山を駆け回って遊んだ。 武家に生まれ育った者でも、家は貧しくて百姓と変わらないような暮らしである。 そんな中でも気品を失わず、少しずつ貯めたお金で武具を揃え…