わたしはその昔まだ学生だったころ、大きな本屋さんでアルバイトをしていたことがある。 今でも当時の店長との面接のことを少しだけ覚えている。店舗の広さの割には狭い事務所で好きな本の話を聞かれた。よしもとばななさんの「キッチン」の中に収録されている短編小説の「ムーンライト・シャドウ」が大好きだったので、その話をしたはずだ。 一通りの話が終わったあと、丸い眼鏡をかけた店長は、座ったままテーブルに両手をつき、一呼吸してから言った。「じゃあ、ここまでお話を聞いてお断りする理由はこちらには何もないので、すぐに働いてください」採用に関しては後日改めて電話で連絡があると思い込んでいたわたしは、その場での”合格発…