モーパッサンの短編に「田舎娘のはなし」がある。 トルストイが苦言を呈した小説、と訳者の青柳瑞穂さんがあとがきに書いているが、生命力にあふれている健康な作品だといいたい、と添えている。 そうだよ、モーパッサン、トルストイに文句いわれたって、たいしたことじゃない、とぼくもいいたい。 この「田舎娘…」を最初に読んだ時、驚いたのは、主人公の娘が「わし」と言うところだ。「わたし」でないところに、異様なショックを感じた。女が、それも若い娘が、「わし」と言う! 結婚したが、子どもができず、「てめいのせいだ」と暴力をふるいはじめる夫に、「わしのせいじゃないよ、わしのせいじゃないよ!」と娘は抗弁する。 だが娘は…