角銭こそは天明の飢饉の遺子である。 人心も、治安も、経済も――あの空前の凶作以来、すべてが堕ちた。 東北地方、特に津軽のあたりでは、野良着姿の百姓までが、蔬菜の出来を語るのと何も変わらぬ顔つきで、 「老人の肉、死人の肉は不味くてかなわん。ぱさぱさしていて味がない。ちっとも力がつく気がしない」「喰うならやはり、女子供か。味が濃くて柔らかだ」 カニバリズムの品評を交換し合ったほどである。 こういう異常な体験は、もちろん長く尾を引いた。 どころではない。経験者の精神を永遠に、不可逆的に変質させたといっていい。 既に人肉喰いという、最大の禁忌に触れている。 「いまさら盗も付け火も殺人も、などて憚るべき…