脳という「傲慢な傍観者」を身体へ引き戻す現代を生きる私たちは、肉体のない「脳の時代」に囚われている。刑事裁判の証拠に脳スキャンが使われ、「ニューロ(神経)」という接頭辞が溢れかえる社会において、私たちの自己とは脳そのものであり、脳は抽象的な計算を行うコンピュータにすぎないと見なされがちだ。そこでは、身体は脳をあちこちへ移動させるためだけの、単なる「乗り物」へと格下げされている。 しかし、本書『なぜ世界はそう見えるのか』が突きつけるのは、そうした脳の独裁に対する、肉体からの鮮やかな叛逆である。気鋭の知覚研究が明らかにしたのは、人間が考え、感じ、存在するありようのすべてが、否応なく肉体によって方向…