第八日目の記憶 暗く低い雲の垂れ込めたある秋の日。私はそのホテルの見える丘に立った。 麻布のホテルMを地図上で見つけた時。ぞーっとするものが胸の内に込み上げてきた。しかしまだ半信半疑だった。偶々同じ名のホテルがあるのだと都合のいいように解釈した。 しかしこうしてホテルを眼下にして、私は胸郭を締め付けられるほどの衝撃を覚えた。 うろたえずに居られなかった。夢に見たホテルだ。確かに憶えている。以前に来た事があるのだろうか? 最大の関心時はこのホテルに太田青年がいるかどうかだ。確かめずにいられなかった。丘から曲がりくねった側道を下り、しばらくアスファルトの道を歩くとホテルが目の前に聳(そび)え立って…