女は、高氏の曲もない飲みぶりに、 その杯を愛惜《いとし》んで、 「小殿、おながれを」 と媚《こ》びて、ねだッた。 そして、彼の浮かない横顔と舞台の方とを等分に見つつ。 「小殿も田楽はお好きなのでございましょう」 「む。きらいでもない」 「さして、お好きでも?」 「ま、半々か」 「ホホホホ。お気むずかしそうな。 今宵は、そんな御不興顔はせぬものでございますよ」 「なぜ」 「わたくしたちの召されたのも、花夜叉のお城興行も、 みな、小殿への御馳走とか」 「そうだったな。もすこし、笑うてでもいなければ悪かったか」 「おとりもちの至らぬせいと、後でわたくしたちが、 お叱りをうけまする」 「それでは不愍《…