名前は、生まれた瞬間に与えられる最初の贈り物。字や響きの自画像であり、それは、選べぬままに背負わされる最初の宿命でもある。 親には申し訳ないが、物心のついた頃から自分の名前が大嫌いだった。姓も名も。 「松田」は奈良の近所のおっちゃん、おばちゃんから「まったくん」と呼ばれる。道を歩いていると「まったくん、おはよう」と挨拶されるのが恥ずかしい。響きが芋っぽいし田舎臭くいし、実際に田舎者なので余計に烙印を押されたようで下を向いてしまう。悪気のない親しみが、むしろ鋭利だった。 なにより「光正」の名前がイヤだった。自己紹介をすれば、ほぼ例外なく「ミツマサ? なんか武将みたいな名前やな」と言われた。そう返…