時空を超える歌声―『萬葉集』翻刻と英訳の狭間で― 宗像多紀理 序章:いにしえの歌に魅せられて 春の霞がたなびき、鶯のさえずりが聞こえる頃となった。さて、今回筆を執ったのは、いにしえの歌集『萬葉集』についてである。遥か昔、人々の心が織りなす歌は、時を超え、今もなお我々の心を揺さぶる。しかし、その歌声を現代に届ける道のりは、決して平坦なものではない。今回は、『萬葉集』の翻刻の大変さと、その英訳の困難さに焦点を当て、その奥深き世界を紐解いていきたい。 第一章:翻刻という名の難事業―文字と向き合う― 『萬葉集』は、現存する日本最古の歌集であり、その成立は奈良時代にまで遡る。当時の人々が万葉仮名と呼ばれ…