うつろふこころを訳すとき──古典和歌の英訳をめぐる省察 多紀理 はじめに 和歌は、わが国における古典文学の中でも、ことに繊細で奥ゆかしい表現を特色とする詩型でございます。三十一音という限られた音数の中に、自然や人の情感をうつしとり、そこに託された「余情」は、読む者のこころにそっと触れる力をもっております。しかしながら、このような和歌の美しさを他言語──とりわけ英語──に移し替えることは、きわめて困難な営みであると言わざるを得ません。 本稿では、和歌の英訳に際して立ちはだかる諸課題を多角的に捉えつつ、翻訳者に求められる素養や倫理的判断、さらには現代的な技術との関係についても考察を深めてまいります…