心に兆すところあり、浅草寺を訪れる。 日差しはまだまだ夏である。 この熱気の中、かくも鮮やかな朱色に取り巻かれていると、余計に体温上昇し、汗がだらだら溢れるようだ。 明治のむかし、この境内に飛び来る鳩を殺して焼いてかぶりつき、口腹の慾を満たしていたのはすなわち早稲田の学生だった。 振り子運動で下駄を射出し、油断している鳥類どもへ手痛い一撃を喰らわせる。そういう技の使い手が五指に余るほど居たのだと、某OBの随筆にて読んだのだ。 むろん、皆、牛鍋など夢にもつつくことの出来ない貧乏書生ばかりであった。 (昭和の浅草、木賃宿) 不足しがちなタンパク質を補うために、いわば生存の必要に迫られての已むを得ざ…