Hatena::ブログ(Diary)

May the Source be with you このページをアンテナに追加 RSSフィード

2014-12-20

屈辱の松屋なう 〜 俺とだく盛りと松屋

これは松屋Advent Calendar 20日目の記事です。昨日はみんなのアニキ、kazken3の「松屋を支える技術」でした。

私はもともと牛丼と言えば吉野家派であり、松屋は好きではありません。私は二ヶ月前まで京都四条壬生川という所に住んでいたのですが、その近辺で吉野家へ行こうとすると、西院という所まで行く必要がありました。

西院というのは大宮から阪急電車で一駅なのですが、夜中に一駅ぶん歩くのもいやなものですよね。家の前にはなか卯があったのですが、当時のなか卯は「和風」を謳い牛丼にシイタケを混入するなどという暴挙に出ており、あまつさえその後は牛丼を廃止してエリンギを入れてくる始末。

なか卯がだめ、吉野家は遠いとなると、残された選択肢は松屋しかありません。そして私は行きたくもない松屋四条大宮駅前店で「屈辱の松屋なう」することになるのでした。しかし、真の屈辱はその後にやってくるのです。

だく盛りなどという客に媚びたサービスなど存在しなかった当時、飯が吸い切れぬタレを丼の底に残すことは、職人の恥であった。

挑戦であった。

f:id:MIZUNO:20141219224549p:image

魔王とその眷属たちは、予知野家の誇るシステムに対し、全胃袋をかけて、戦いを挑んでいた。

「腹ぁくくれ。……戦争だ」


立喰師列伝. 押井守. Production I.G, 2006.

つゆだく

私がはじめてその名前を聞いたのは、20世紀が終わろうとしていた頃だったと記憶しています。それから10年以上。こんなオーダーも一般的になったようです。

そもそも牛めしとは何でしょうか。ラーメンの主役が麺であるように、牛めしとは白い米を食べる食べ物です。牛肉や玉葱など、所詮はうどんにおける天かすであり、あくまでも主役は適度にタレを吸った米でなければなりません。しかも牛めしは雑炊ではありません。タレの中で泳ぎ、ふやけてお茶漬け様相を呈した白い物体は、もはや私の期待する牛めしではないのです。

食べ方など個人の自由。だく盛りも大いに結構。これが時流なのかもしれません。お店としてはサービスのつもりなのかもしれません。しかし何も言っていないのに、デフォルトで米が海水浴をしている丼を出すのはいただけません。Linuxサーバーだって、minimalでインストールしてから必要に応じてパッケージを足すのが基本。フルインストールした状態から不要なものを抜いていく人はいませんよね。「注醤、鍋に返らず」という中国の故事にある通り、一度丼に入れすぎてしまったタレを抜くことはできないのです。ああ、昭和の牛丼職人の魂はどこへ行ってしまったのでしょうか。望むらくは、2015年牛めしのタレが少なくあることを。

さて。そんな理由から松屋では「つゆ抜き」を注文するわけですが、時にはもう一味欲しくなる時があるかもしれません。そこで登場するのがサイドメニュー。中でも一番最初に思いつくのが生卵ではないでしょうか。すき焼きは溶き卵につけて食べるのが定番。タレで煮込まれた牛肉と生卵の相性は保証つきですし、卵かけご飯というのも魅力的かもしれません。しかし。

男の挙動には、無銭飲食に特有の後ろめたさがまったく感じられなかった。

目線が店の者を追うこともなく、むしろ傍若無人とも、尊大とも形容しうる自信が漲っていた。

大盛りも、口直しの御新香も、味噌汁も求めない。

「やつは……玄人だ」

生卵を頼まない、という事実が決め手だった。

(中略)

生卵は確かに牛丼に馴染むし、熱い飯の温度を緩和して素早く嚥下することを可能にするが、生卵をかきまぜることは、牛丼本来の味わい、タレの染み込んだ熱い飯の香りを決定的に損なう。

男が玄人であることに関しては、一点の疑問もない。


立喰師列伝. 押井守. Production I.G, 2006.

溶き卵で米を水没させてしまっては、せっかくつゆ抜きを注文した意味がありません。卵はどんな味とも調和しますが、それは同時に、個々の食材の尖った味わいを損ってしまうことも意味するのです。牛皿とライスではなく、あくまで牛めしをオーダーした以上、その調和のとれた味わいを損なうような行為は、厳に慎むべきと考えます。

そこで半熟卵をオーダーします。適度にとろみのついた半熟卵であれば、不必要に米や牛肉を侵食することもなく、白飯にワンポイントの彩りを加えることができるというものです。肉を半分ほど食した後、丼の中央部の米を穴を開けるように食べてから、そこに卵を投入するのが味の変化を楽しむ意味でもベストです。

並、つゆ抜き、半熟卵。これこそが松屋の、松屋ならではの食べ方と言えるのではないでしょうか。

吉野家にも半熟卵ありますよ?」

ぎゃふん

立喰師列伝 通常版 [DVD]

立喰師列伝 通常版 [DVD]