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読闘食闘日記

16/10/02 助けない亀、助ける亀

[]『レッドタートル ある島の物語』

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高畑監督が入れ込んでいる、という話から、単なる癒し系映画ではないんだろうなと思っていたけど、思っていた以上に身もふたもなく、容赦なくも美しい映画でした。物語の骨子はポリネシア系のよくある神話なのだけど、サブタイトルが「ある男の物語」ではないところが、みどころ。

見終わってから夫の人と話していて謎だったのは、

・最後に島の外に出る「男」はどこに向かうのか

 →夫の人:タートルの世界に戻る

 →わたし:いやそれなら荷物なしで身一つで行くのだろうし、あの「道具」に触発されないのでは

・なぜタートルは「男」に寄り添うことにしたのか?

 →夫の人:神だから

 →わたし:1・「えっ、殺したいほど外に出たかったのにすみませんでした」からの、せめてもの慰労、2・最初から子種を求めての行動だった、3・戻るべき社会がもうない(未来少年コナン的な意味で)から引き留めた

・なぜ母は息子と別れるときにあんなに悲しそうだったのか(夫の人)

 →わたし:イエスがキリストになっていく過程で母マリアがたびたび「心に留めた」瞬間が一気に来たのでは

などでした。

見る人によって、美しい画面の各所へのフォーカス具合も含め、微妙に見え方が違う映画だと思います。『シン・ゴジラ』『君の名は。』に加え、今年の夏の映画の傑作。わたしのなかでは芸術性ではダントツの1位。『シン・ゴジラ』が初代ゴジラを見る時の初めての驚きと恐さを目指したのに対し、『レッドタートル』は監督がそれを目指したかは不明ですが、浦島物語やそれに類する異類婚姻譚の生まれる原初が近代人にわかるように描けています。

あと、「レッドタートル」の振る舞いはちょっと『紅い眼鏡』の少女にも似てるよね。そういう意味では『紅い眼鏡』の神話性をあらためて見出した作品でもありました。

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16/09/25 このレベルなら録音使用にして(涙

[]ミラノ・スカラ座ドン・キホーテ』@東京文化会館

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セットも衣装も華やかだけど、やたらパステルカラーを使っての学芸会チックなものではなく、ダンサーもオールスカラ座キャストで舞台は素晴らしい。なのに、相変わらず日本側のオケがいまいち。なんですかその序盤のファゴットの濁った音は……。指揮者は中間管理職で板挾みでつらかろうな。

プロローグ、あまりに重苦しい雰囲気に、サンチョ・パンサさえもドン・キホーテの老人性妄想の中の人物だったらどうしよう、と思える切実さ。あと、当時は貴重品だったであろう本を暖炉に放り込むのはやめて宿の人!!! ここで先日、映画『ゴーストバスターズ』リメイク版の序盤のテニュアの件で胃のあたりをぐさっとやられた時のようなショックが。でもそのあと、サンチョ・パンサが宿の女性たちに追い回されて無事(?)、登場したのでほっとする。若い時はサンチョ・パンサはうざいだけだったのですが、自分が老いてくると彼の存在の重要度がよくわかります。

さて第一幕。ナポレオン式軍服の軍人たちや、シルクハットの紳士たち、ローマンカラーの昔懐かしい神父たちにモネの絵に出てくるようなシルエットのドレスの女性たちがいて、時代はドン・キホーテの頃よりずっと最近みたいに見える。こ、これはドン・キホーテ物語を読んで、自分がドン・キホーテだと思い込んだ老人の物語なのか?!

意外だったのはガマーシュがこの段階では明るいグリーンのフロックコート、明るいブルーの側線の入った白いパンツに、白地にグリーンとブルーのチェックのベストに明るいベージュの丸いシルエットの帽子と、相当な洒落男に描かれていること。髪形もまるで『ヴェニスに死す』のタジオみたい(この時点では)。パリ帰りかロンドン帰りか、みたいに洒落のめした、でもサンチョ・パンサに当たり散らしているという、まるで赤塚先生描くところのイヤミみたいな感じです。

そしてさすがスカラ座というべきか、憎たらしくなるほどに闘牛士のコール・ドがラテン的美男揃い。そして、とにかくモブがきっちり芝居をしまくるので、主役二人のいいところをうっかりすると見逃しそうになります。ドン・キホーテ、ガマーシュ、キトリ父をサンチョ・パンサが食欲からひっかきまわしたりと、超充実!

ところでわたしはこの作品のキトリとバジルはヤンキー的なカップルだと思っているのですが、今回は神父たちがキトリの振る舞いに「嗚呼、嘆かわしい!」と目を覆っているシーンがあり、「やっぱりそうだよね〜」などとほくそ笑みました。メルセデスとエスパーダのパイセンたちとの関係も、ヤンキーっぽいなあと常々思っているのです。

さて、アマトリーチェ義援金を投入してから第二幕へ。

ロマの踊りがすさまじい迫力。とくに男性陣の力強い色気に圧倒されます。その後のドン・キホーテの夢のシーンは、舞台は素晴らしいのに、音が、問題再燃。よりにもよってドゥルネシア姫のソロでハープが音を外すわ、弱々しくて不安定だわ、リズムにさえ合ってないわで、コチェトコワ、よく影響されずに踊りきったって感じでした。ドン・キホーテの高潔さに泣ける雰囲気、まったくなし! もうスカラ座オケ演奏のテープにしてほしい。

ちなみにこの日のキトリはコチェトコワでしたが、彼女の終演後のインスタグラムの写真は、演奏にうんざりしてるようにも見える感慨深いものです。コチェトコワの終演後のこの脱力倒れ込みインスタは恒例ですが、いつもは一人で写っているのですよ。ところがこの夜のこれは、もの問いたげなバジル役のワシリーエフと一緒。二人ともロシア人ですし、言外のメッセージをつい、考えてしまいます。 https://www.instagram.com/p/BKzVdM-gH53/

現実に戻っての、バジルの狂言自殺のシーンはセットの工夫が素晴らしい。第一幕のセットに風車のシーンのセット、その他を組み合わせて、まったく違う街角みたいにしているのがすごい。そしてここでも、バジルやキトリ、仲間たちの振る舞いはヤンキーっぽいのでした。

第三幕は、カツラだったことを暴露されたガマーシュが、開き直って結婚式の余興を即興でやるシーンに救われます。彼もヤンキー女子のキトリじゃなくて、話の合いそうな文系女子と出会えたらいいのにね。

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とか思いつつ、今日も終演後はコンコンブルでがっつり食べました。なんとずっとフォアグラメニューのなかったコンコンブルで、フォアグラのテリーヌ発見! 前菜盛り合わせに、これまた大好きな人参のラペと入れてもらいました。時計回りに、人参のラペ、フォアグラのテリーヌ、鶏レバーのムース、砂肝のコンフィ、鰊か鯖の酢漬け、キャベツのサラダ。5種盛りのはずなんだけど、なんかサービスしてくれた。

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そして興味を抑え切れず野菜のパフェ。ビーツとベリー(スグリかなにか)のソースを底に、かなりゆるいマッシュポテト、アボカドのディップの上に生野菜。

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メインはにんにくとローズマリーの香るコンコンブル風ローストビーフ。お好みで、と出された赤唐辛子のブランデー漬けの香りが素晴らしい! 辛いの苦手なので、ちょっとしかかけられなかったけど。

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16/08/25 ここから始まる、かもしれない

[]映画『ラサへの歩き方 〜祈りの2400km』@渋谷イメージフォーラム

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中国籍チベット人の撮るチベット文化圏映画は近年、国際映画祭などで散見されるようになってきましたが、この映画は漢民族の監督がチベット文化を描いた作品です。

http://www.moviola.jp/lhasa/theater.html

なので、オリエンタリズムによって撮られたのでは、と心配していたのですが、思った以上にフラットにチベット人とその生活を扱っていました。

最初はポスターに使われている女の子が主人公なのかと思ったのですが、だいたいみんなそれぞれにエピソードがあり、特にニヤニヤしたのは理容室でかわい子ちゃんに向き合っていられなくて、回転椅子でくるくるしちゃう男子18歳! 甘酸っぺえ!

この映画、素晴らしいチベット高原の景色と、非日常のはずの巡礼の中の日常的な事件の両方を、一度の鑑賞で咀嚼するのはなかなか難しいです。そしてこの映画の景色は、映画館サイズじゃないと意味がないスケールでした。

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16/08/07 ゴジラと王蟲

[]『シン・ゴジラ』@TOHOシネマズ新宿

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昨日はエヴァシリーズもゴジラシリーズも興味ない夫の人と、ゴジラのいる歌舞伎町の映画館のTCXシアターで『シン・ゴジラ』2回目。なお、今日はパンフレットがあったので、買ってきました。夫の人は、「何も期待してなかったけど、オタクがやり切った作品として100点!」とのこと。ただ、動物・植物などの生き物好きなので「でもこうして見てみると、ゴジラってかわいそう」と、ぽつり。

そして、東宝の看板商品なのに音源を3.1chにしたのはなぜかについて、夫の人は「これは虚構だよ〜」という庵野監督の様々な目配せを画面から感じていたことから、臨場感を必要以上に出したくなかったのでは、と。

そんな夫の人いわく「最後の尻尾のあれは注入隊第1隊が尻尾でさらわれて凍っちゃったんじゃないか」。ヒィ〜、そう言われるとそうかもっていうか、かなりそれはつらい……。8/6に『シン・ゴジラ』見るっていうことに、自分でも意外なほどにぐっときていたので、余計に。東海JCO臨界事故に遭った方々のことなども、どうしたって思い出してしまう。


終わったらまっすぐに新宿西口の果実園リーベルへ。ここはメニューその他の誤字脱字が物凄いのが楽しみの一つなんですが、入り口に脇かかってる垂れ幕が新しくなってて、案の定……。

↓パパイヤパフェが二つ。右側のは基本のフルーツパフェでは?

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↓名もなく値段もない、紅茶のような飲み物

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夫の人は攻撃色王蟲みたいなケーキを頼んで、写真を撮ろうとすると執拗に王蟲画像をフレームインさせようとしてきました。

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16/08/02 何度も見たい『シン・ゴジラ』、何度も言いたい「無人在来線爆弾」

[]『シン・ゴジラ』爆音上映@立川シネマシティ

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シン・ゴジラゴジラ映画や名作日本映画を踏襲しているのに、どんな映画にも似てないので、まず映画自体がゴジラっぽい。そして、クリエイターは打ちのめされる映画だろうと思う(というか打ちのめされに見に行ってほしい! そしてそこから這い上がってオリジナルな自分になってほしい)。

映像体験として予告編は序の口でした! CGや合成映像映画で予告編からの想像を超えるものって、初めて見たかもしれない(シュヴァンクマイエルとかは除く)。最初に上陸した際のゴジラの皮膚感がもっと気持ち悪いのが好みなので、造形はよかったのに〜、と思った以外は大満足!

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有名俳優も実力派俳優も自衛隊も、視覚に対して物量作戦なんだけど、それも無駄に豪華なのではなく必然だし、馴染みのある場所もない場所も、景気よく壊されていく場面はカタルシスがきっちり得られる。職人の作品だなあ。途中からストーリーと関係なく、その職人としてのきっちり具合に感涙していました。

そして、題材が題材なだけに、強烈に東日本大震災と福島第一を思わせ、というか、そこから逃げない絵作りが素晴らしい。現実のそれを被災地中心に復興するためには、竹野内豊の最後のセリフのようにならなくちゃダメなんだろうな、いや、本当にそうか? 諦めていいのか? という観客への宿題まで用意されているというきっちりぶり。

あと、あんまりツイッターとかで「エヴァじゃん(呆」と言われているので、昨今、別のアニメ出身監督の自己劣化コピーぶりに哀しくなっている身としては心配だったのですが、いやあ、あれくらいのセルフパロディはぜんぜん問題なし! なにしろ劣化してないし! あ、でもセルフパロディって書いたけど、庵野監督自身はパロディとか思ってなくて、「笑わせようとしたんじゃないっ!」@アオイホノオ、な状況なのかも。

やっぱり庵野監督は天才だったんですねえ。でも、エンドロール見てると監督、働きすぎ! そしてわたしは映画館を出てケーキ屋さんで「ものすごいものを見てしまった」と思いながら、次はどの上映方式でこの映画を見ようかと思っていたのでした。

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