Hatena::ブログ(Diary)

davsの日記

2017-10-21

SFに登場する奴隷の描写について

アーネスト・クラインの『ゲームウォーズ』を読みました。


人類にとって革新的なネットワーク世界オアシスが生活にも密着した2041年が舞台。開発者のジェームズ・ハリデー(ビル・ゲイツスティーブ・ジョブズあたりがモデルだろう)の莫大な遺産の争奪戦仮想現実内外で、展開されます。クライマックスでは、メカゴジラウルトラマンが戦う、などというオタクネタ満載の小説。私が、この小説のことを知ったのは、山本弘君の知らない方程式 BISビブリオバトル部』の中で、ヒロインの伏木空が、この本を紹介していたから。ストーリーを魅力的に語って、「面白そう」「読んでみたい」と思わせるのは、さすがプロの作家の筆と言うべきで、『ゲームウォーズ』そのものの紹介は、そちらに譲ったほうがよいでしょう。



 私が、今回、書くのは、作品中に登場する奴隷の描写についてです。
 『ゲームウォーズ』の作品世界では、債権者が、債権の回収のために、債務者を拘束して労働させることができます。「清算労働者」と呼ばれるが、債務奴隷なのであり、主人公は、ある目的のため、清算労働者として、敵役の企業にもぐりこむ。

年棒は2万8500ドル。そこから住居費、食費、各種税金、歯科と眼科を含む医療費、娯楽費が自動的に差し引かれる。残った分(があれば)は全額、未払負債の返済に充当される。返済が完了した時点で清算労働は終了だ。勤務成績によってはIOIに正社員として登用される可能性もある。
 決まっているだろう? そんな話、みんな嘘っぱちさ。返済を完了してめでたく釈放なんてことはありえない。差し引き生活費、延滞金、遅延利息を加算していくと、毎月、負債が減るどころか、逆に増えていく仕組みになっているんだから。うっかり連行されたら最後、死ぬまでここで清算労働だ。

典型的な債務奴隷の姿です。しかし、例えば、慰安婦問題否認論者などは、「報酬や娯楽のある奴隷(笑)」といって、これは奴隷ではない、と言うのでしょう。しかし、『ゲームウォーズ』の主人公は、はっきりと「清算労働者」を奴隷として認識しています。
 企業の奴隷となって死ぬまでここで暮らすんだよ、ジョニー。ぼくは心のなかでそう教えてやった。しかし口には出さず、親切なIOI人事担当者がまたもや画面に現れて清算労働者の日常を明るく説明するのを黙って見守った。
 ここにいるのは清算労働者ではなく、ふつうの従業員だ。今日の仕事が終われば家に帰ることができる。会社を辞めることだってできる。考えたことはないのだろうか。数千名の清算労働者がこのビルに住み、すぐ近くのフロアで奴隷のように働いていることを。それを知っていて、なんとも思わないんだろうか。

 退職や居住の自由がないことが、奴隷であることの要素だと、主人公が考えていると分かります。念のために言っておきますが、『ゲームウォーズ』はSFに分類されるとは言え、現在の人類社会と社会通念が著しく異なる社会を描いてはいません。登場人物の多くが、金銭欲があるし、われわれと同じようなことにコンプレックスを抱いています。何が奴隷であるかについての主人公の判断基準は、常識的なものでしょう。
 むしろ、現代日本でよくみかける、「報酬や娯楽があったら奴隷じゃない」という主張がむしろ、SF的と言わざるを得ません。

2017-10-09

メーテルアイコンさんの従軍慰安婦問題についての間違いだらけの主張

 慰安婦問題について、以下のような主張をしている人がいました。
 自信たっぷりに書いていますが、よくここまでというぐらいひどい間違いがあります。
 
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まずQ1のIWG報告書について


monk.jp氏の主張

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答え

 monk.jp氏は、韓国政府要求で、アメリカ合衆国当局が、調査を行なったが、「韓国が主張する内容を裏付ける証拠」は見つからず、従軍慰安婦制度について日本は無罪だ、という結論の報告書を出したかのように書いていますが、これは誤りあるいは虚偽です。

 IWGは「ナチス戦争犯罪と日本帝国政府の記録の各省庁作業班」であって慰安婦に特化したものではありません。また、既に機密解除がなされ公開された公文書や既知の文書・証言記録は報告の対象外で、存在する全ての文書を調査した訳ではありません。「慰安婦に関して戦争犯罪はなかった」などという結論が出るはずもありません。
 IWG報告書の話というのは、

  1. 従軍慰安婦制度の強制性を示す文書は、既に存在する。
  2. それまで、米国が機密指定していた文書の中には、1はほとんどなかった。

というものであって、従軍慰安婦制度に関して日本の無罪を示すものでは全くないのです。

 これは例えば、旧家の土蔵から、未知の文書が発見され、17世紀に書かれたものだと分かった。その文書には関ヶ原の戦いについての記述がなかった。したがって、関ヶ原の戦いはなかったのだ、という結論を出せないのと同じです。

 さらに「慰安婦制度を当時の日本国内売春制度の延長とみなしています」とあります。それが報告書の結論であるかのような書き方ですが、現在のアメリカ合衆国当局は、そういう結論を出してはいません。「慰安婦制度を当時の日本国内売春制度の延長とみなして」いたのは、同時代の米軍当局です。しかも、当時の米軍従軍慰安婦制度を調査して、そう結論づけたわけではなく、IWG報告書の日本の戦争犯罪についての追加論文における分析です。論文では、当時の米軍当局の認識が不十分であり、慰安婦を軍慰安所に強制的に入れられた不本意犠牲者ではなく、職業売春婦としてとらえられた、と指摘しています。

Q2の河野談話について


monk.jp氏の主張

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答え

「「軍の要請を受けた業者…甘言、強圧による等…」とありますが、軍がそれを知っていたとも書かれていません。」実に驚くべき主張です。まず、河野談話の表現を見てみましょう。
慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかになった。

 「官憲」というのは、軍人等の大日本帝国の権力機構の一員だとしか解釈しようがありません。
産経新聞にもこんな記事がありました。
それでは、ここで言う「官憲」とは何なのか。内閣外政審議室が河野談話発表時にまとめた記者会見の「想定問答」には、次のように書いてある。

 「『官憲等』とは、軍人、巡査、面(当時の村)の職員などを指す。これらの者が慰安婦の募集の際に立ち会うなどして、強圧的な行為に加担するケースがあった」
【視線】慰安婦募集の「実行犯」 “強圧と甘言”駆使したのは誰か 政治部編集委員・阿比留瑠比(1/3ページ) - 産経ニュース

  monk.jp氏は、河野談話を相手が読まないことを期待して、主張しているとしか考えられません。
 そもそも、官憲等が直接、加担していなくても、軍の要請を受けた業者が行なったことを、軍が知らないと言えるものではないでしょう。

Q5の婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約について


monk.jp氏の主張

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答え

まず「婦人及児童ノ売買禁止ニ関スル国際条約」があるから、慰安婦は人身売買だ、などと主張している人を私は知りません。この条約があろうがなかろうが、例えば、金銭を渡して、人身を拘束することは、人身売買なのです。monk.jp氏は、きっと、わら人形と戦っているのでしょう。
さらに、monk.jp氏は、条約植民地を適用除外することによって、「半島慰安婦に対して条約違反はありません」と言っていますが、条約が適用除外になるのは、植民地という場所であって、植民地出身の人間ではありません。

下記のブログに解説がありますように、宋神道さんの裁判判決では、中国にあった軍慰安所で働かされていたことについて、「勧誘、誘引、拐去」(第一条)があったものと認められ、醜業条約の適用対象となる「醜業」であったと認めることができる、との判断が示されています。
日本軍性暴力-4つづき 日本軍「慰安婦」を強制された宋神道事例での「日本軍と慰安所業者の関係」と日本の国際条約違反と拉致問題と… ( アジア情勢 ) - ナザレのイエスと釈尊・道元の思想の深化。日本人の知性で考える! - Yahoo!ブログ

そもそも、国がつくった法の抜け穴を、国が利用しました、だから問題はないんです、とmonk.jp氏は言っている訳ですが、それって自慢できることとはとても思いません。

2017-07-02

池田信夫氏、他人を「当たり屋」よばわり〜 バニラ・エア問題で逆張りの本領発揮

池田信夫氏は、ユナイテッド航空の機内から乗客が引きずり出された事件で、ユナイテッド航空を擁護していました。
【追記あり】オーバーブッキングは合理的である – アゴラ

したがって、バニラ・エアの事件でも、告発者の側を論難するだろうと思っていましたら、案の定、下のような記事を書いていました。
「バリアフリー」のインフレに歯止めをかけよう – アゴラ
それにしても、"「バリアフリー」のインフレに歯止めをかけよう"とは、ずいぶんな言い種ですし、記事の中身もひどいものです。

池田氏乙武 洋匡氏の記事にある以下の主張を引用の上で、批判しています。

バニラ・エア合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える。

池田信夫氏の主張では、このストレッチャーは、合理的配慮の範囲をこえているものということになります。彼は以下のように書いています。
(前略)ストレッチャーを用意することが「合理的な配慮」にあたるというのは乙武さんの解釈にすぎない。合理的か否かの基準は、法令で義務づけられているかどうかで客観的に決めるべきだ。

バリアフリー法では、客席数が60以上の航空機における機内用車椅子の設置が義務づけられているが、乗降の際のストレッチャーなどの設置義務はない。空港にも車椅子に対応する設備が義務づけられているが、これは航空会社の義務ではない。したがってバニラ・エアがストレッチャーを用意しなかったことは違法ではない。バリアフリー法では、客席数が60以上の航空機における機内用車椅子の設置が義務づけられているが、乗降の際のストレッチャーなどの設置義務はない。空港にも車椅子に対応する設備が義務づけられているが、これは航空会社の義務ではない。したがってバニラ・エアがストレッチャーを用意しなかったことは違法ではない。


 どうやら、池田氏は、障害者差別解消法合理的配慮というものは、他の法令で義務づけられている範囲内のことだ、という奇怪な解釈をしているようです。今回の例では、「バリアフリー法」(一体、何の法律でしょうか。高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律のことでしょうか。)で、航空会社にストレッチャーの設置義務が定められていないから、ストレッチャーの設置は、障害者差別解消法合理的配慮ではない、ということのようです。他の法令で義務づけられていることだけをやっておればいいのであれば、そもそも障害者差別解消法が不要になるのでは、という当然の疑問は、池田氏の頭にはないようです。

肢体不自由 合理的配慮等具体例データ集(合理的配慮サーチ):障害者制度改革担当室 - 内閣府
 上は、肢体不自由者に対する合理的配慮の例だが、「高い所に陳列された商品を取って渡す」など、他の法令で義務づけられているなど聞いたことがありません。池田氏は、これは合理的な配慮にあたらないと主張されるのかもしれません。

 乙武 洋匡氏の記事に戻ると、彼はストレッチャーを用意することが合理的な配慮の範囲内であることについて、根拠を示しています。池田氏が引用した部分を、その前の部分を含めて、再び引用してみましょう。
実際にバニラ・エアは木島さんとのトラブルから二週間以内にストレッチャーを導入していることを考えれば、予算的にも、手続き的にも、そう準備に負担がかかるものではないことが窺える。つまり、バニラ・エア合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える。

乙武氏は、バニラ・エアは問題が起きてから、すぐにストレッチャーを導入した。それは実施に伴う負担が過重でなかったということだ、したがって、ストレッチャーを用意することが合理的な配慮の範囲内だった、と主張しているわけです。池田氏は、乙武氏の主張の根拠となる部分を、どういうわけか削除の上、引用して、自らの主張につなげています。
 後半にすすむと、池田氏の論はさらにひどくなります。
 彼のような「当たり屋」が騒ぎを起こすと、バニラ・エアのようなLCC障害者用の設備や人員を用意しなければならない。外資系航空会社OBによると、そういう機材を1台チャーターするのには1万円ぐらいかかる。バニラ・エア関空奄美便の料金は4780円である。これでは「格安航空会社」は成り立たない。

 バニラ・エアが導入したアシストストレッチャーがどの機種かは不明ですが、ミドリ安全のページには、138,000円(税別)のものが掲載されています。いつの間にか、「1台チャーターするのには1万円ぐらいかかる。」機材の話にすりかわっています。いずれにしても、障害者を排除しなければ成り立たないビジネスが、成り立つ必要はないと、私は考えます。

 池田氏の記事で一番ひどいのが、結論部分です。
乙武さんも銀座のレストランを名指しで批判した事件を謝罪しているが、こういう当たり屋が来たら、全国の階段で上がるレストランがアウトだ。車椅子用エレベーターをつけるコストは、他の客が負担する。これは「ゼロリスク」と同じく、少数派が多数派にただ乗りするモラル・ハザードである。

こういう場合に大事なのは、「合理的な配慮」などの基準を法令で明確に決めることだ。それを「思いやりがないのは違法だ」というように拡大解釈すると、日本中に無駄な障害者用設備があふれ、そのコストは利用者や納税者が負担することになる。

 バリアを放置して、コストを抑え、安価なサービスを提供するビジネスモデルの方が、少数派の犠牲に多数派がただ乗りしているいうべきでしょう。さらには、まるで障害者は利用者や納税者ではないかのような物言いは、やめていただきたいものです。

2017-06-07

国費外国人留学生の75%以上が中国・韓国からの留学生というのはデマ。そして国費外国人留学生の75%以上が中国・韓国からの留学生であっても問題ない。

外国人留学生が、日本人学生に比べて異常に手厚い奨学制度の恩恵を受けている。しかも、それを利用する外国人留学生75%以上が、反日国家の中国韓国からの留学生だ。彼らに血税を使わせるな、と主張するブログ記事がありました。
日本人を苦しめ留学生を優遇する奨学金制度 - himikoの護国日記
別に国費外国人留学生の大半が、中国韓国からの留学生であっても、選考が公正におこなわれているのなら、全く問題はないはずですが、ブログ主の考えは違うようです。

 しかも、元記事で厚遇されているという国費外国人留学生の「75%以上が中国韓国からの留学生です。」というのが、全くの誤りなのだ。

 元記事では下のような表を掲載して、「さらには、これらを利用する「外国人留学生」のうち75%以上が中国韓国からの留学生です。」と主張しています。ところが、この表からいくら計算しても、国費外国人留学生のうち、中国韓国からの留学生の割合は28.7パーセントと三割もありません。それでは、私費留学生も含めた留学生全体に占める中国韓国からの留学生の割合を、持ち出しているのか、と計算すると、こちらも74.4パーセントと「75%以上が中国韓国からの留学生」とはなりません。ブログ主は、どうせ誰も、掲載表から計算しないだろうと故意にデタラメな数字を書いたか、全く計算できていないのかのどちらかでしょう。
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 さらにこの問題について、文部科学省が「我が国の国費外国人留学生制度について、事実を誤認した内容の記事等が流布されている事例が見受けられました。」として、下のようなwebページを作っていました。

今後の留学生政策について:文部科学省
 
 その第一番目が、「国費外国人留学生制度においては、中国人留学生が大半を占めているのではないですか。」という問いに対する回答なのだから、泣かせます。
「国費留学生総数は、平成24年5月現在で8,588人です。このうち中国籍の国費留学生は1,411人と国費留学生全体の16%程度であり、国費外国人留学生制度の予算の大半を中国人留学生支給しているということはありません。」「なお、国別の留学生総数と、そのうち国費留学生数の割合についても中国は1.6%であり、全体の平均(6.2%)と比しても低い割合となっています。」ということだが、おそらく、ブログ主のように、文部科学省に抗議の電話をかけるような御仁も多いのでしょう。文部科学省の方々もお気の毒にとしか言いようがありません。

 ブログ主は、文部科学省に電話したときの録音を、元記事にアップロードしていましたが、その中で「いもしない従軍慰安婦」と言っていました。私も、従軍慰安婦は性奴隷ではない、単なる金目当ての売春婦だ、と言い張る人は見ましたが、従軍慰安婦の存在自体を否定する人ははじめて見ました。

2017-05-21

労働基準法と前借金

公娼制従軍慰安婦制度でつきものの、前借金契約は、現代日本では違法だ、とは皆が理解しているところだと思いますが、実際の法律ではどうなっているか気になるところです。
労働基準法で、「前借金」という言葉が登場するのは、第17条です。

(前借金相殺の禁止)
第十七条  使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権賃金を相殺してはならない。

 前借金と賃金を相殺することは明確に禁止されていますが、前借金をさせておいて、「やめたら、前借金を耳を揃えて返してもらうからな」と労働を強制するのは違法じゃない、と言い出す人がいそうです。
 そこで、出てくるのが、同じ労働基準法の第5条です。
(強制労働の禁止)
第五条  使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

 条文中に「前借金」という言葉は出てきません。しかし、この条文の解釈について、当時の労働省が出した通達昭和23年3月2日付基発第381号にこうあります。(赤字にしたのは、引用者。『労働基準法解釈総覧』からの引用です。)
「暴行」、「脅迫」、「監禁」以外の手段で「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」としては、長期労働契約労働契約不履行に関する賠償額予定契約、前借金契約、強制貯金の如きものがあり、労働契約に基づく場合でも、労務の提供を要求するに当たり、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」を用いて労働を強制した場合には、本条違反となる(略)

さらには以下のようにあって、私が冒頭で例示した「やめたら、前借金を耳を揃えて返してもらうからな」というのは、「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」となるようです。
「精神又は身体の自由を不当に拘束する手段」とは精神の作用又は身体の行動を何らかの形で妨げられる状態を生じさせる方法をいう。「不当」とは本条の目的に照らしかつ個々の場合において、具体的かつその諸条件をも考慮し、社会通念上是認し難い程度の手段の意である。したがって必ずしも「不法」なもののみに限られず、たとえ合法的であっても、「不当」なものとなることがある。賃金との相殺を伴わない前借金が周囲の具体的事情により労働者に明示のあるいは黙示の威圧を及ぼす場合の如きはその例である。

 さらに興味深いのは、この通達の序文とも言うべき部分です。労働基準法第5条の意義についてこう書いています。この強制労働禁止の条文のみなもとは、新憲法だけでなく、1930年の強制労働の禁止に関する条約にあるのだ、といいたいようです。労働基準法第5条のように、強制労働を禁止する法は、1930年代から必要だったが、ようやく戦後になって実現したとも言えるでしょう。従軍慰安婦問題で「当時の価値観では〜」と言い出す人は多いですが、当時から強制労働を禁止する条約と、そうしたものが必要であるという価値観があったことは忘れるべきではないと思います。
 我が国の労働関係には、今尚暴行脅迫等の手段によって労働を強制するという封建的悪習が残存しているが、従来かかる強制労働に対する直接の処罰規定がなく、僅かに同時に刑法犯を構成する場合に限って処罰し得るに過ぎず、しかも刑法による処罰は事実上殆ど行われなかった。憲法第18条は、国民の基本的人権として「何人もいかなる奴隷的拘束も受けない。又犯罪による処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服せられない」ことを保障している。労働基準法第5条は、この趣旨を労働関係について具体化し労働者自由の侵害、基本的人権の蹂躙を厳罰を以て禁止し、以て今尚労働関係に残存する封建的悪習を払拭し、労働者自由意志に基づく労働を保障せんとすることを目的とするものである。
 既に1930年第14回国際労働会議で採決された「強制労働の禁止に関する条約案」においても「処罰の脅威の下に強要せられ且つ自ら任意に申出たるに非ざる労務」たる強制労働を禁止することが確認せられていたのであるが、今回本条の制定により始めてこれが完全に実施せられることになったものであり、その意義は極めて大きい。