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メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

20170224(Fri)

[]大映妖怪3部作を観た。 大映妖怪3部作を観た。を含むブックマーク 大映妖怪3部作を観た。のブックマークコメント

「大映妖怪3部作」とは『妖怪百物語』(1968)、『妖怪大戦争』(1968)、『東海道お化け道中』(1969)の3作を指す映画作品で、タイトル通り"妖怪"が物語の要となって描かれている。なんで今「大映妖怪3部作」なのかというと、これは単なる個人的ノスタルジーである。1968年公開の『妖怪百物語』は実は子供の頃劇場で観ていたりしていたのだ。それと、去年の暮読んだ京極夏彦の長編小説『虚実妖怪百物語』が大変素晴らしい作品だった為、気分的に"妖怪"がキテいたのである。そんなわけで『ガメラ』『大魔神』でお馴染みの大映特撮を駆使した(?)「大映妖怪3部作」をちょっと紹介してみよう。(参考:妖怪シリーズ - Wikipedia

■妖怪百物語 (監督:安田公義 1968年日本映画)

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1968年公開のこの映画を劇場で観たオレは1962年生まれだから6歳ぐらいだったのだろう。当時は妖怪ブロマイドや妖怪プラモデルを買ったことを懐かしく思いだした。そしてこうして50年振りぐらいに観直してみると、なんと物語を全然覚えていない。妖怪が出ているのは流石に覚えていたが、観直して「こんなお話だったのか!」と驚いたぐらいだ。そのお話はと言うと悪徳代官とつるんだ阿漕な大家に長屋の住人たちが無理矢理立ち退かされることになり、そのうち殺人事件まで起こって住民たちの憤懣遣るかたないところに祠を壊された妖怪たちが現れ……というもの。実際妖怪たちはただ現れるだけで悪さや復讐の手助けをするわけではないが、心やましい悪人たちは妖怪の姿に恐怖に駆られ勝手に自滅してゆくのである。いうなれば勧善懲悪の物語なのだが、つまりは悪事を成した者には必ず祟りが起こる、ということなのだ。ただし現実的には正しい人間がきちんと悪事を追及し事を収めることになる。全体的に大人でも楽しめる通俗時代劇の構成を成しており、この頃の大映の志の高さがうかがわれる。妖怪の造形は今見ると稚拙ではあるが、これはこれで味わい深いということにしておこう。そしてクライマックスの"百鬼夜行"の光景がなにより圧巻であり、きちんと「妖怪物語」として〆るのである。(参考:妖怪百物語 - Wikipedia

妖怪大戦争 (監督:黒田義之 1968年日本映画)

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その続編となるこの『妖怪大戦争』、これも実は当時劇場に観に行ったのだが、子供だったオレは冒頭数分で気持ち悪くなり、映画館を出てしまっただけでなくゲロッてしまった思い出がある。だから実のところ観ていないというのが正しい。今観ると別にゲロるほど気持ちの悪い作品でも何でもないんだが、なにしろ当時のオレは大変な怖がりだったということなのだ。お話は古代バビロニアの吸血妖怪ダイモン(原典は無く創作らしい)が甦りなぜだか日本に来て日本を征服せんと企むのである。そこへ日本妖怪集団が登場し、ダイモンを懲らしめようと力を合わせるのだ。前作では殆ど喋らなかった妖怪たちがこの作品では喋くりに喋くりまわり、しかも関西弁や九州弁まで登場するのだからとても楽しい(その妖怪の言い伝えのある土地の方言ということらしい)。また前作ではどちらかというと背景だった妖怪たちがこの作品では主役となって暴れまわり、その分視聴年齢設定は若干下がった作品だということが出来るが、だからこその面白さがこの作品にはある。そして興味深かったのはこの作品とホラー映画のマイルストーン、ウィリアム・フリードキン監督作『エクソシスト』(1973)との夥しい共通点だ。ダイモンの出現地古代バビロニアとは『エクソシスト』の悪霊パズズの発掘された現イラクのことであり、それら悪霊が海を隔てた馴染の無い土地の人間に取り憑く、という流れも一緒だ。そして『エクソシスト』における悪魔憑きリーガンがキリストを冒涜したように、『妖怪大戦争』においてはダイモンの取り憑いた代官が神棚や仏壇を破壊するのである。妖怪の一人がダイモンを成敗するのに「俺に取り憑け!」とやる部分は『エクソシスト』クライマックスと合致する。映画ではダイモン対日本妖怪軍団の熾烈な戦いが描かれ特撮好きはにんまりすること至極だろう。(参考:妖怪大戦争 (1968年の映画) - Wikipedia

■東海道お化け道中 (監督:安田公義 1969年日本映画)

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「大映妖怪3部作」のラスト作品に位置づけられる作品ではあるが、実は今回『妖怪百物語』『妖怪大戦争』をまとめて視聴しようと調べた時に初めて存在を知った作品であり、それまで「3部作」であったことすら知らなかった。タイトルはどことなくコミカルだが、内容自体は『妖怪百物語』を思わせる通俗時代劇に妖怪を絡めてみせたお話になっている。物語の中心となるのはある理由からヤクザに追われる幼女が、まだ見ぬ父を探し様々な人に助けられながら東海道を旅してゆくというものだ。いわゆる股旅ものであり、人情と殺陣がたっぷり盛り込まれた外連味溢れる大衆娯楽時代劇として完成している。この王道の物語展開はあたかも日本の伝統芸のごときであり、逆に全く古さを感じさせない。そしてそこにヤクザに祠を壊された妖怪たちの怒りが絡んでくるという訳だ。妖怪の登場シーンはこれまでで最も少ないようだが、アクセントとして効果的であったように思う。そして全2作がどちらかというとどんよりと湿気の多い暗さのあった作品だったところを、道中の自然や街道町が多く描かれるこの物語はどこか風通しがよく明るい雰囲気がある。物語も明快で歯切れがいい。さらにこの時代の日本俳優の顔がいい。自分は誰が誰と言うほど名前は知らないのだが、ヤクザの面構えも善人の凛とした表情もどれも惚れ惚れする顔付であった。(参考:東海道お化け道中 - Wikipedia

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20170222(Wed)

[]『クレイジー・ジャーニーVol.4』を観た。 『クレイジー・ジャーニーVol.4』を観た。を含むブックマーク 『クレイジー・ジャーニーVol.4』を観た。のブックマークコメント

クレイジージャーニー vol.4 [DVD]

独自の視点や強いこだわりを持ち世界を巡る「クレイジージャーニー」が特異な体験を語る伝聞型紀行バラエティ第4巻。佐藤健寿のエチオピア撮影旅や、リヤカーを引いて世界中をひたすら歩く「リヤカーマン」こと永瀬忠志らに密着する。

世界を股に掛けて「イっちゃってる旅」を紹介するTV番組『クレイジー・ジャーニー』のDVD第4弾である。今回もこれまで以上に強力な"クレイジー・ジャーニー"が紹介されていて面白かった。

今回のDVD収録はイベント映像も含めて8編。

◎Disc:1

・"奇界遺産"佐藤健寿が紹介するエチオピアの「地獄の入り口」「ハイエナマン&謎の老人」

・【リヤカーを引いて地球を歩き倒すリヤカーマン】⇒ 永瀬忠志

・DVD発売イベント映像。

◎DISC:2

・丸山ゴンザレスによる「メキシコ麻薬戦争」前・後編

・"北極点無補給単独徒歩"に挑み続ける男・荻田泰永

・「クレイジージャーニー」+「王様のブランチ」による番組裏話

お馴染み"奇界遺産"佐藤健寿が紹介するのはエチオピアにあるエルタ・アレ火山の「地獄の入り口」。煮えたぎる溶岩が5メートルの近くで見られるという火山の光景も凄いが、地面から噴き出した酸や硫黄や鉱塩が黄色や緑の毒々しい原色で地面を覆い尽くすダロル火山地帯の情景は気の狂った超現実主義絵画の様相を呈していて息を吞ませられる。続く「ハイエナマン&謎の老人」は、まあ、おまけみたいな映像。それにしても毎回思ってるが佐藤健寿って細身でひょうひょうとしているし意外とかっこいいしお洒落なのな。あれは女性ファンつくだろ。 

奇界遺産「地獄の入り口」エチオピアに地獄が集中してる NAVERまとめ

もう一人の常連・丸山ゴンザレスの前後編に渡る「メキシコ麻薬戦争」は、まあタイトル通りの内容ではあるがTVバラエティで放送できる程度のお手軽レベルではあるな。ゴンザレスは地元の自警団の案内で麻薬戦争がらみの場所を案内してもらうが、あくまでも自警団サイドの案内であり、諸悪の根源たる麻薬カルテルの関係者と接触したりするわけではないのだ。でもたまに死体が写ったりして盛り上がるし、不穏な空気は十分伝わってくるかな。それにしてもゴンザレスは愛想よさそうに見えて結構目が座ってて、それなりに根性ありそうだよな。 

メキシコ麻薬戦争 - Wikipedia

そして41年もの年月を掛け、リヤカー牽いて世界を旅する男・永瀬忠志!その歩いた総距離は地球一周を既に超える47000キロ以上!もう「飲んだビールが5万本・吸った煙草が5万箱」の「五万節」状態!なんでリヤカーなのか全然分かんないところがまさに「クレイジージャーニー」!なんで旅してるのか本人も分からないとか言ってるところも「クレイジージャーニー」!なにもかもなんだか分かんないのだが、なんだか分かんないけどとりあえずカンドーさせられる!この人は膨大な年月と労力を掛け、とりたてて意味の無いことでとんでもない偉業を打ち立てた、というある種「異能」の人なんだよな。 

永瀬忠志プロフィール!リヤカーマンの実績と職業や家族も紹介!

最後に紹介するのは今まで観た「クレイジージャーニー」で最強&最狂なんじゃないかと個人的に思った"北極点無補給単独徒歩"に挑み続ける男・荻田泰永!えー、"北極点無補給単独徒歩"ってなんだか呪文みたいな言葉ですが、この荻田さん、カナダ最北端から氷の張った北極海を北極点を目指し徒歩で踏破する、しかも途中一切補給無し、という冒険の旅を続けている人なのだ。順調にいけば最大50日で800キロの行程なのだが、なにしろ海氷なので裂け目があったり山のように立ち上がった乱氷帯があったりで決して直線距離で行くことができない。しかも橇に積んだ荷物は100キロ、気温はマイナス50度、さらにホッキョクグマ襲撃の危険まであるのだ!おまけに前進したと思ったら乗っている氷が流されて北極点から遠ざかっているという、もう「賽の河原で石を積む」ような状態!!実はこれまで何度も挑戦しつつ北極点到達は成されておらず、現在も挑戦中なのだという。いやあ……死と隣り合わせというか、常人なら簡単に死ぬ冒険と言うか、まあ常人は普通やろうとも思わないというか……。そしてこんな過酷な冒険を、荻田さんは「死にそうで大変だからこそやる」のだという。もうこれマゾだよな……。でもリヤカーマン永瀬さんもそうだけど、「何だか分かんないけど、でもやるんだよ!」という「クレイジー」さは最高の強力さだよな!とりあえずオレは感嘆したよ! 

北極冒険家 荻田泰永(N.A.P.所属)遠征ホームページ

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20170220(Mon)

[]最近読んだコミック 最近読んだコミックを含むブックマーク 最近読んだコミックのブックマークコメント

ヘルボーイ:地獄の花嫁 / マイク・ミニョーラ

マイク・ミニョーラの大傑作オカルト・コミック『ヘルボーイ』、この巻で一応のラストであるらしい。正確には前回刊行された『ヘルボーイ:疾風怒濤』がヘルボーイ・サーガの大団円となり、この『地獄の花嫁』は『疾風怒濤』以前のヘルボーイの活躍を辿った短編集の形となっている。6作が収められているがミニョーラがグラフィックを描いたのは1作のみ(『ウィッティア家の遺産』)で、あとは原作に留まりグラフィックは別アーチストが描くことになる。これら別アーチストの手になる作はミニョーラ原作の雰囲気を上手く伝えてはいるが、アーチストにより若干クオリティが低いのがちょっと残念。とはいえミニョーラ自体もどんどん抽象化の進んだグラフィックへと変貌してきているので、この辺は良し悪しだな。その中ではヘルボーイ・ミーツ・ルチャリブレという展開を見せる『ヘルボーイ・イン・メキシコ 酔生夢譚』がなにしろユニーク。そしてタイトル作『地獄の花嫁』は古代イスラエル王ソロモンにまで遡るおぞましい呪いを描いた重厚な作品であり、さらにキリスト教によって邪教として圧殺されたある豊かなコロニーの悲劇を描いている点で読み応えがあった。ただグラフィックがなあ……。なお"ヘルボーイ・シリーズのラスト"とは書いたが、実はヘルボーイが故郷である地獄を巡る『ヘルボーイ・イン・ヘル』という新章が新たに始まるらしい。

■ラストマン(4) / バラック, ヴィヴェス, サンラヴィル

ラストマン 第4巻 (EURO MANGA COLLECTION)

ラストマン 第4巻 (EURO MANGA COLLECTION)

異世界格闘ファンタジーとして始まったバンドデシネ『ラストマン』だが、巻を重ねるごとにその様相は刻々と変化し、その予測の付かない展開の仕方に作者チームの並々ならぬ野心と才能をうかがうことが出来て、そういった部分が非常に楽しめるコミックなんだよな。この4巻では現代社会としか思えない都市を舞台に主人公母子・アドリアンとマリアンヌが、彼らを捨てた男リシャールと対面することになるが、そこからがまた驚く様な展開で、またもやにんまりとさせられるのだ。とはいえ「格闘ファンタジー」という骨子はきっちり守っていて、しかもそれがどんどんと凄みを増していく辺り、いやあホント続巻が楽しみ過ぎるコミックだなあ!

ダンジョン飯(4) / 九井諒子

ダンジョンに潜り魔物を倒しながらそれを料理してゆく、というユニークなファンタジー・コミック『ダンジョン飯』、いよいよ冒険のそもそもの目的だった"ドラゴン討伐"の回に突入。で、これでお終いかな?と思ったらまたまた新たな伏線が飛び出してまたもや面白くなってきそう。前回辺りから「モンスター料理」といったコンセプトは薄れてきているのだが、ファンタジー物語として十分こなれてきていてこれはこれでOK。

■プリニウス(5) / ヤマザキマリ, とり・みき

古代ローマに実在した博物学者プリニウスの足跡を辿るコミック『プリニウス』、十分面白いんだが作者であるヤマザキさんととりさんのストーリーテリングのバランスがどうもまちまちで、お互いちょっと遠慮しながら製作してるんではないかなあ、という気がしないでもない。そういう部分で展開の仕方に時々"むら"を感じるんだが、この5巻ではいい具合に両者ノリながら描いているように感じ、物語も佳境に入ってきたのであった。

■ダーリンは71歳 / 西原理恵子

ダーリンは71歳 (コミックス単行本)

ダーリンは71歳 (コミックス単行本)

『ダーリンは70歳』に続きサイバラ+高須院長カップルの熟年の恋を面白おかしく時には切なく描く『ダーリンは71歳』、今回もとどまる所を知らぬサイバラ節が全開だが、この『71歳』ではサイバラのラブラブデレデレぶりがさらに加速し、いつも怪気炎を上げているあのサイバラがどことなく乙女チックになっている所が実に微笑ましい。同時に高須院長の傑物ぶりを示すエピソードもあれこれ盛り込まれ、まあネットじゃあれこれ言う人もいるけど、なんせ基本は爺さんなんだし、それにしちゃあたいした人だと思うけどなあ。

いぬやしき(8) / 奥浩哉

いぬやしき(8) (イブニングコミックス)

いぬやしき(8) (イブニングコミックス)

宇宙人に肉体を改造され、不死身の超兵器となった爺さん・犬屋敷と、青年・獅子神とが善と悪に分かれて戦うコミック『いぬやしき』、この両者のガチバトルがいよいよ展開する巻となったが、例によって奥浩哉独特の精緻に描かれた都市の情景をばんばん見開きで使い、相変わらずスピード感溢れる展開を観ることが出来る。というかそれだけのコミックでありストーリーは甚だ薄っぺらいのだが、そういうもんだと割り切って読めば楽しめる。

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20170217(Fri)

[]韓国・中国・ベトナム・日本の「怪しい彼女」を観比べてみた 韓国・中国・ベトナム・日本の「怪しい彼女」を観比べてみたを含むブックマーク 韓国・中国・ベトナム・日本の「怪しい彼女」を観比べてみたのブックマークコメント

映画『怪しい彼女』は70歳にならんとする頑固ババアが不思議な写真館に立ち寄ったことにより20歳の娘の姿へと生まれ変わり、様々な騒動を巻き起こす、という物語である。一種のファンタジーではあるが、老いるということ、家族の在り方、女というものの人生、それらが交錯した非常に優れたシナリオを持つ作品として完成している。もともとは2014年に『수상한 그녀(邦題:怪しい彼女)』として韓国で製作され社会現象となるほど大ヒットを飛ばした作品であり、その後中国、ベトナム、日本でもリメイクされるほどであった。その勢いは止まらず、インドネシア、タイ、インド、さらにドイツ、アメリカでもリメイクの話があるらしい(個人的にはインド版が超楽しみ)。

そんな『怪しい彼女』のオリジナル+リメイク作4本を見比べようと思ったのは、「アジアの4つの国で一つの物語モチーフを展開するとどういった差異が出るのだろう?それぞれの国の"アジアの情緒"はどのように違いどのように発露するのだろう?」という興味があったからだった。アジア映画と言うと大して見てもいないくせに情緒性だと勝手に思い込んでいるオレはそこに注目したかったのである。

各国版『怪しい彼女』との比較動画公開!映画『あやしい彼女』

■怪しい彼女 (監督:ファン・ドンヒョク 2014年韓国映画)

怪しい彼女 [Blu-ray]

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オリジナル。なにしろ韓国映画というと個人的には鉄板の完成度を誇る作品ばかりのように感じるが、この作品もケチを付ける所がないほどに完成度が高い。その完成度の高さというのは、韓国映画独特のリアリズムにあると思う。時にそのリアリズムは残酷で痛々しい現実の一面を切り出すが、ある種のファンタジー作品である今作ではそのリアリズムがどう発露したのか。20歳に変身した老婆をコメディ・タッチに描きながら、この作品ではその中に老いることの残酷さをスッと差し込む。輝くような20代を描きながらも、その背後にはそれがいつか夢でしかないことを否応なく突きつけられるであろう寂しさがつきまとう。それはコメディでありながらブルーを基調とした画面からもうかがえる。韓国版オリジナルはファンタジーの中にすら現実の悲哀を持ち込み、そのコントラストの在り方がこの作品をさらに印象深いものにしているのだ。

■20歳よ、もう一度 (監督:レスト・チェン 2015年中国映画)

20歳よ、もう一度 [Blu-ray]

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中国版。4作品の中で最も情感に溢れ明るく美しい画面の中で物語を綴ったのがこの『20歳よ、もう一度』だと思う。そしてその情感は決してトゥーマッチなものではなく、心を慰撫する様な優しい眼差しで満ちている。韓国版からリアリズムの重厚さを取り除くとこの作品になる、ということも出来る。さらにリメイクに際し、オリジナルでは若干説明不足だったり唐突だったりするエピソードを、きちんと自然で分かりやすいものに変えている。完璧だと思っていた韓国版をさらにトリートメントして細かいところまで噛み砕いて見せたのがこの中国版なのだ。ストーリーはまるで同じであり、その進行も殆ど変わらないにもかかわらずこれだけ印象の違う作品を生み出すことが出来る中国映画界の底力すら感じた。あと中国っぽいなあ、と思ったのは、婆さん連中が麻雀しているシーンだね。また、現代中国の都市部の生活を垣間見せる部分でも興味深かった。

■ベトナムの怪しい彼女 (監督:ファン・ザー・ニャット・リン 2015年ベトナム映画)

ベトナム版。実は「怪しい彼女」はこの作品を一番最初に観ていた。タイトルに「ベトナムの」と付くと、なんだか楽しそうな映画に思えません?そしてこのベトナム版、4作品の中で比べるなら、最もスラップスティックの度合いが強い。脇役が妙に癖が強く突拍子もないキャラなのだ。主演女優も4作品の中で一番エキゾチックな顔つきをしているかもしれない。そして、この作品には4作品の中で最も突出している部分がある。それは、歌の素晴らしさだ。主人公が歌を歌うことで注目されその後の騒動に繋がるというプロットを持った「怪しい彼女」の中で、このベトナム版の歌声とその歌詞の説得力の凄さは圧倒的である。主演女優がもともとベトナムきっての人気歌手と言うこともあるのだろう。さらにこのベトナム版に凄みを与えているのが、もともとの主人公老婆の過去にベトナム戦争体験があるという描写だ。そしてベトナムの比較的質素に感じる家屋のセットがまたもや新鮮であった。

■あやしい彼女 (監督:水田伸生 2016年日本映画)

あやしい彼女 [Blu-ray]

あやしい彼女 [Blu-ray]

日本版。韓国、中国、ベトナムと、同一テーマながらそれぞれに素晴らしい作品として完成していた「怪しい彼女」であり、この日本版もさぞや高い完成度を見せるのだろうと思って観始めたが、これがもうお話にならないような凡作だった。まずオリジナル・プロットを4作の中で一番変更しているのだが、その部分が、どれもこれもハズしているのだ。なにより冒頭、アラフォーがどうだの美魔女がこうだの稚拙な流行り言葉を入れたモノローグで既に鼻白み、主人公老婆が商店街をスキップしつつ歌いながら登場するシーンで「こんなヤツいるかよ」とドッチラケた。その後も妙に恋愛要素を強調しようとするしアスレチック公園でキャッキャウフフするシーンは「誰だよこいつら」と辟易していた。何より拙かったのは歌のつまらなさだろう。懐メロを今風に歌ったら大注目、ということなんだが、そんなの既にやってるアーチストはいるだろうし、だからといって大注目されたわけでもない。さらにクライマックス曲のつまらなさよ。ただしラストのちょっとした違いは個人的には面白かった。主人公女優も日本人だけあって馴染み易いだろう。

20170215(Wed)

[]最近聴いたエレクトロニック・ミュージック  最近聴いたエレクトロニック・ミュージック を含むブックマーク 最近聴いたエレクトロニック・ミュージック のブックマークコメント

■The Triad / Pantha Du Prince

Triad

Triad

ドイツのテクノ・プロデューサーHendrik WeberによるプロジェクトPantha Du Princeのニュー・アルバム。ヴォーカルを多数フィーチャーし、ロマンチックでエモーショナルな曲と内省的な曲の並ぶコンテンポラリー・サウンド。 《試聴》

■Gqom Oh! X Crudo Volta Mixtape / Various Artists

Gqom Oh! X Crudo Volta Mixtape

Gqom Oh! X Crudo Volta Mixtape

「なにやらアフリカンなリズムの不思議サウンド…」と思って聴いていたが、これはアフリカの新しいサウンド「Gqom(ゴム)」というものなのらしい。このアルバムはロンドンのゴム系レーベルGqom Oh!とイタリアンDJ・Crudo Voltaがコンビを組んで製作されたコンピレーション。プリミテイヴなアフリカン・チャントとエレクトロニカの融合がとっても新鮮。 《試聴》

■Last Bus to Lake Park / DJ Clent

Last Bus To Lake Park

Last Bus To Lake Park

ジュークのアルバムだというならこれは聴かねばなるまい、ということでシカゴ・ジュークサウンドの重鎮DJ Clentが満を持して送るデビュー・アルバム。ジュークは基本一発芸みたいな所もあるが、ベテランDJの手に掛かるとさすが非常に多彩な技で攻めてくるなかなかに聴かせるジューク・アルバムとして完成している。 《試聴》

■Footwork or Die / DJ Diamond

Footwork Or Die

Footwork Or Die

「フットワークか死か!?」という威勢のいいタイトルを冠したフットワーク・プロデューサーDJ Diamondの新作。これぞフットワークと呼べるような痙攣的なリズムと神経症的なヴォイス・ループ、ひたすら薄っぺらい音で突っ走るシンセサイザー、時としてユーモラスで時としてシリアス、たまにはジャジー、というフットワーク玉手箱的な楽しいフットワーク・アルバム。 《試聴》

■Maniax / DJ Alina

Maniax

Maniax

ヴェイパーウェイヴの代名詞的レーベルDREAM CATALOGのアーチストDJ Alinaのアルバムだが、DREAM CATALOG的高湿度アンビエントでは全くなく、むしろエレクトリック・パンクとも呼ぶべきアグレッシヴで剥き出しな音を響かせている。とはいえその根底にあるのはDREAM CATALOG的ロマンチズムなんだよな。 《試聴》

■End of World Rave / wosX

End of World Rave

End of World Rave

こちらもDREAM CATALOGのアーチスト、wosX。やはりDREAM CATALOGぽくない音で、アナログ感すらあるシンプルな骨子を持った音ながら、どこか侘び寂びを感じさせるようなアンダーグラウンド・サウンドを鳴らしている。 《試聴》

Open Your Eyes (with 0PN) / DJ Earl

Open Your Eyes [12 inch Analog]

Open Your Eyes [12 inch Analog]

そしてそしてまたもや懲りずにシカゴ・ジューク/フットワーク!というDJ Earlのニュー・アルバム「Open Your Eyes」。ONEOHTRIX POINT NEVERやTASOとのコラボ曲も注目だが、ジューク/フットワークとして十分尖がった音を鳴らしており、エレクトリック音の使い方も洗練されている。やはりジューク/フットワーク作品はどれも粒ぞろいだ。 《試聴》

■New Start / Taso

New Start

New Start

こちらはLAのベース・ミュージックDJ、TasoのニューEP。DJ Spinn、DJ Earl、DJ Tayeを始め、DJ Rashadとのコラボ曲が並ぶが、メンツが示すようによりジューク/フットワークに接近しつつ、独自のベース・ミュージック・ワールドを展開している。今この辺の音がとても面白い。 《試聴》

■Presents the RaggaPreservation Society EP / Seekersinternational

Presents the RaggaPreservation Society EP

Presents the RaggaPreservation Society EP

カナダの変態エレクトロニック・プロデューサーSeekersinternationalの新作はサンプリングコラージュ・ドラムンベースとも呼ぶべき眩暈のするようなカオスでサイケデリックな音の奔流。中盤からもコラージュされループするダブ/ダンスホール・サウンドが縦横無尽に鳴り響き、まさに変幻自在なサウンドワークを堪能することが出来る。 《試聴》

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20170213(Mon)

[]最近読んだSF小説〜『宇宙探偵マグナス・リドルフ』『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』 最近読んだSF小説〜『宇宙探偵マグナス・リドルフ』『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』を含むブックマーク 最近読んだSF小説〜『宇宙探偵マグナス・リドルフ』『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』のブックマークコメント

■宇宙探偵マグナス・リドルフ / ジャック・ヴァンス

ある時は沈毅なる老哲学者、ある時は知謀に長けた数学者、しかしてその実体は宙を駆けるトラブルシューター、その名もマグナス・リドルフ! 魑魅魍魎の異星人たちを相手に、白髪白鬚の老紳士マグナスの超思考が炸裂する痛快無比な宇宙ミステリシリーズがついに登場。奇習に彩られた惑星ココドでの合戦賭博を中止させるよう依頼を受けたマグナスが講じたアクロバティックな手段とは?代表作「ココドの戦士」の他、歓楽惑星のカジノ経営者の犯罪アリバイトリックを暴くために己の数学センスを駆使する「数学を少々」、閉鎖された空間〈ハブ〉で起きた殺人事件をめぐるフーダニットもの「とどめの一撃」など、ミステリからファンタジー、秘境探検に海洋冒険、さらにはハードSFまで、ヴァンスのヴァラエティに富んだ世界が堪能できる連作全10篇収録。

ジャック・ヴァンス、個人的にはそれほど馴染のあるSF作家ではなかったが、以前国書から出ていた『奇跡なす者たち』を読んでその独特の筆致に感嘆し、また読んでみようかと思っていた作家である。ヴァンスの独特の筆致とは異世界描写におけるエキゾチズムと色彩感覚にある。そしてそれらがSF小説における異郷感を大いに醸し出しているのだ。ヴァンスは世界一周旅行をしたこともある旅行好きだったということだが、そういった経験と生来ある異邦への憧れがこれらのエキゾチズムと色彩感覚を生み出していたのではないか。

そんなヴァンスの連作短編集がまたもや国書から出されるというのでとりあえず読んでみることにした。タイトルは『宇宙探偵マグナス・リドルフ』、白髪白髭の矍鑠たる老紳士マグナス・リドルフが、暗黒宇宙に起こる奇想天外な事件の謎を優れた理力で快刀乱麻に解決してゆくといったストーリーだ。特徴的なのは一癖も二癖もある食えない連中が依頼主、あるいは敵役として登場し、隙あらばマグナスの身ぐるみを剥ごうと虎視眈々と狙っており、これらをマグナスがどう出し抜くのかといった「腹の読み合い・騙し合い」の様相が物語を楽しくしている。主人公マグナスの鷹揚として振る舞う知的なキャラクターもまた魅力的である。

この短編集には10編の物語が収められているが、それぞれに異なる惑星の事なる情景が、ヴァンスの面目躍如たる格別なエキゾチズムを湛えており、事件究明の物語と併せSF小説ならではの異郷感を堪能することが出来るのも醍醐味の一つだろう。ヴァンス連作短編集はこの他に『天界の眼』『スペース・オペラ』の2冊が刊行されているが、また気が向いたら手に取ってみようかと思っている。

伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ / ルイス・バジェット他

未来人がタイム・マシンのテスト用に過去へと送った、いらなくなったおもちゃ箱。それを偶然手にした兄妹の身に起こったこととは…ルイス・パジェットの幻の名作である表題作をはじめ、SF界の大御所ポールの初期の代表作「虚影の街」、異星からの恐るべき侵略を描くブラナーの「思考の谺」など、SF界きっての目利き伊藤典夫が惚れこみ翻訳した傑作の中から、SF評論の第一人者高橋良平が厳選した7中短篇を収録。

SF翻訳家伊藤典夫といえばヴォネガットやクラークやオールディスなどの超名作を手掛けた翻訳家だ。ただし個人的に言うなら自分は翻訳家それ自体に深い思い入れのあるような人間ではない。だから「伊藤典夫翻訳SF傑作選」と聞いてすぐさま飛びついたわけではないが、氏の訳したSF短編だというならSF黎明期の埋もれた作品が多数収められていのではないかと思い手に取った。するとなるほど、収録された7編は1943年から1959年に発表されたもので、さらに「名前こそ知ってはいるが意識して読み込んだ事がない」ようなシブイSF作家の名前が目白押しだった。そして最初の想像通りどこか懐かしくもまた甘酸っぱい味わいのSF作品が並んでいる。一人のロートルSFファンとしてはこの辺の作品を読んでいると紅顔でも美少年でもなかった饐えた臭いの10代の頃をついつい思い起こしてしまう。面白いのは、この年代の作品は深読みしようとすると第2次世界大戦前後、さらに冷戦時代の英米の世相と住民心理が微妙にうかがえるということだ。そういった部分でSF史と並行してある現代史を念頭に置いて読むと面白いかもしれない。

yoyoshi yoyoshi 2017/02/13 14:04 「スペース・オペラ」はこれから刊行予定だったと思います。マグナス・リドルフもキューゲルも、抱腹絶倒の面白さと底意地の悪さで大満足でした。ジョン・ブラナーの「ザンジバーに立つ」も今年の出版予定に入っていて嬉しい!ナイトランド叢書も第3期ラインナップが素晴らしいし、「魔術師の帝国」全部買うぞ!

yoyoshi yoyoshi 2017/02/13 14:06 すみません、また連投してしまって。フリックするだけで送信されるんですね。

globalheadglobalhead 2017/02/13 14:13 だぶったコメントは削除しておきました。積読本が溜まっているのでSF新刊は手を出さないことにしていたんですが、書店に寄るとついつい買っちゃてそして読んじゃうんですよねえ…ああ悩ましい…今『破壊された男』読み始めてます。

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20170210(Fri)

[]クリス・パイン主演による爽やかな人間ドラマ〜映画『People Like Us』 クリス・パイン主演による爽やかな人間ドラマ〜映画『People Like Us』を含むブックマーク クリス・パイン主演による爽やかな人間ドラマ〜映画『People Like Us』のブックマークコメント

■People Like Us (監督:アレックス・カーツマン 2012年アメリカ映画)

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父の死により明らかになった義理の姉の存在。しかし主人公はある理由からその姉に血の繋がりがあることを知らせられないでいた。2012年にアメリカで公開された日本未公開作『People Like Us』は揺れ動く人の心の綾を情感豊かに描く人間ドラマだ。主演に『スター・トレック』シリーズでお馴染みのクリス・パイン、『ピッチ・パーフェクト』『ハンガー・ゲーム』シリーズのエリザベス・バンクス。共演としてオリビア・ワイルド、ミシェル・ファイファー。監督は『スター・トレック』『アメイジング・スパイダーマン2』などで製作・脚本を務めたアレックス・カーツマン。この作品は彼の実体験に基づいて脚本が書かれたという。

《物語》N.Y.に住むサム(クリス・パイン)は仕事のトラブルにより大金を工面しなければならなくなっていた。そんな折、父の訃報が届く。葬式のため恋人のハンナ(オリビア・ワイルド)と共に実家のあるL.A.に赴くサム。そこで会った父の弁護士は父から託されたという小さな鞄をサムに渡す。その中にはなんと15万ドルもの現金が入っており、さらに驚くべきことにサムに腹違いの姉がおり、この現金はその一人息子に渡してほしいという遺言があった。サムはウェイトレスをしているその姉フランキー(エリザベス・バンクス)を見つけ、徐々に近付いてゆくが、自分が義理の弟であり、大金を託されていることを全く言い出せずにいた。サムは仕事のトラブルで必要だった金を、父が残した金で補充しようと考えていたのだ。だがシングルマザーであるフランキーの暮らしは苦しく、サムはそれを見捨てるわけにもいかなかった。サムはフランキーの一人息子ジョシュ(マイケル・ホール・ダダリオ)とも親密になってゆくが、自分の抱える秘密に次第に苦悩を深めてゆく。

煮え切らない登場人物の出てくる物語は時として苛立たされるが、この作品は逆に主人公の煮え切らなさこそに感情移入して観てしまう物語だった。15万ドル、日本円だと1700万円という大金がいきなり転がり込み、実際のところその金は父の遺言にある相手に渡すべきものではあるが、黙っていれば誰も分かりはしないのだ。しかもそれはただのあぶく銭ではなく、仕事上のトラブルでどうしても必要だった金の穴埋めになるのだ。もちろんこれは正しいこととは言えない。だが、もしも自分が同じ状況に置かれていたとしたら、金を本来の譲渡先に渡していただろうか?最終的に渡したとしても、そこに一切の迷いも生じなかっただろうか?自分はこの物語の主人公とは全く違う、真正な人間であると胸を張って言えるだろうか?

さらに話を難しくしているのがいきなり明らかになった「義理の姉」の存在だ。それも父が死のその時まで秘密にしていた、妻とは別の女性に生ませた娘なのだ。父の遺産を着服しようとしていたサムが、義理の姉フランキーを探し、姉弟であることを秘密にしながら近付いたのは、単に好奇心だったのだろう。しかしサムは、次第にフランキーとその息子ジョシュに頻繁に接触を持とうとし、困り事の手助けをしてゆくようになる。それは、サムの罪悪感からだったのだろう。彼は間違ったことをやろうとしつつ、それへの罪悪感もやはり持ち合わせていたのだ。結局サムはどうしたかったのだろう。遺産を着服するのかしないのか。血の繋がりがあることを告白するのかしないのか。サムはずっと迷い続けている、そして告白を引き延ばせば引き延ばすほど、真実を話す機会をどんどん失ってゆくのだ。この迷い続けるサムの姿が実にいい。なぜならとてもいじらしく、人間臭いからだ。

こういった物語と併せ、作品を素晴らしいものにしているのは主人公サムを感情豊かに演じるクリス・パインの存在だろう。自分はクリス・パイン主演作と言うとなにしろ『スター・トレック』と幾つかの作品しか知らないのだが、実のところ優男なルックスぐらいしか頭になかった。しかしこの作品では、クリス・パインの持つ独特の爽やかさが、心の弱さを持った主人公を嫌味無く見せることに成功しているのだ。弱さと優しさとを併せ持ち、いつも思い惑う主人公の姿に、観る者は自然と自らを重ね合わせることだろう。そしてサムの姉役であるエリザベス・バンクスがまたいい。これまで金髪の美人女優以上の印象がなかったけれども、この作品では人生に疲れ苛立つシングルマザーの姿を非常にリアルに演じ切っていた。他の出演陣にしても、実に人間味溢れる役どころだったと思う。決して派手な作品ではないが、心温まる逸品として長く記憶に残ることだろう。

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PEOPLE LIKE US

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