外国人労働者 柔軟思考で受け入れを - 朝日新聞(2018年2月25日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13375809.html
http://archive.today/2018.02.25-075521/https://www.asahi.com/articles/DA3S13375809.html

海外からの労働者を、必要な人数だけ多く受け入れる。家族と一緒では認めず、一定期間働いた後は帰国させる。
安倍首相がそんな制度を作るよう指示した。外国人の大学教授や企業経営者、研究者らに絞って来てもらう「専門的・技術的分野」の在留資格について、その対象を広げたり基準を下げたりする考えだ。
介護や農業などでの深刻な人手不足への対策だというが、あまりにご都合主義ではないか。外国人に働いてほしいのなら、生活者として受け入れ、家族とともに長く暮らしてもらうことを基本に考えるべきだ。
外国人労働者は昨年10月時点で128万人で、この5年間で60万人も増えた。増加分のうち留学生のアルバイトなど「資格外活動」が18・8万人、技能や知識の習得を通じた国際貢献をうたう技能実習も12・3万人を占め、就労が目的ではない人が過半に及ぶ。
政府も現状のいびつさを認めており、「就労目的の資格を見直す」ために「専門的・技術的分野」に注目したと説明する。職種ごとに備えるべき技能や語学力を見極めつつ、必要な人数を計算するという。
同様の仕組みは海外にもある。なし崩し的に留学生・実習生に頼る現状を改めるのは前進だと評価する声も出そうだ。
しかし今回の対応は人権上の懸念があるだけでなく、労働力確保への有効策にもならないのではないか。やはり期間限定の受け入れである技能実習制度をめぐる現場の声を聞くと、そう考えざるをえない。
賃金や働く時間をめぐるトラブルが頻発する一方、実習生をきちんと処遇し育てる経営者も少なくない。一人前になったと思ったら帰国し、別の実習生探しに追われる状況を嘆き、改善を求める声が後を絶たない。
高齢化と人口減が進む地方では、実習生は地域社会の貴重な一員でもある。溶け込んでは帰国するという繰り返しでは、地域づくりはままならない。
安倍政権は、事実上の人手確保策として技能実習制度の拡充を重ねてきた。それが限界に達し、新たな策を考え始めたということだろう。しかし労働者の国際的な獲得競争が激化する中で、「日本が選ばれなくなってきた」との声が増えている。
政権は「いわゆる移民は受け入れない」と繰り返す。首相は今回、「在留期間に上限を設け、家族帯同は基本的に認めないのが条件」と強調した。しかし、より柔軟で開かれた受け入れ策を考える時ではないか。

米国の銃規制 若者の声を受け止めよ - 朝日新聞(2018年2月25日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13375811.html
http://archive.today/2018.02.25-075354/https://www.asahi.com/articles/DA3S13375811.html

「本当に私たちを守る気があるなら、とっくに銃規制が強まっていたはずだ」
米国フロリダ州の高校で17人が犠牲になった銃乱射事件を機に、多くの高校生ら若者が全米で怒りの声を上げている。
トランプ大統領と議会は今度こそ、重い腰を上げねばならない。若者らの悲痛な叫びを受け止め、実効性のある規制に向けて行動を起こすべきである。
だがトランプ氏の対応は相変わらず鈍い。事件が起きた高校の生徒らと面会しても、言及したのは小手先の対策だった。
銃を購入する際の身元や精神状態のチェック強化や、ライフル銃の購入年齢の引き上げといった点は、かねて実現できたはずの課題である。
同時にトランプ氏は、教員による銃の携行に前向きな考えを示した。銃の権利擁護派の主張でもある。規制よりも、銃の利用を広げることが安全をもたらすという倒錯した発想だ。
銃規制が大きく進まない背景の一つに、豊富な資金と政治力を抱える全米ライフル協会の存在がある。与党共和党を中心に強い影響力をもち、トランプ氏も大統領選で支持を受けた。
そもそも米国憲法には武器所有を保障する条文があり、最高裁は10年前、個人の銃所有の権利を確認した。すでに米国内には3億丁の銃が出回っている。直ちに日本や欧州並みの規制を期待するのは現実的ではない。
それでも、この異常な銃社会を少しでも是正するのは政府と議会の当然の義務である。
市民団体によると、今回は、米国で今年起きた18回目の学校発砲事件。この5年間を平均すれば、ほぼ1週間に1度、学校で発砲が起きているという。
99年のコロンバイン高校(13人射殺)、07年のバージニア工科大学(32人)、12年のコネティカット州の小学校(26人)――惨劇のたび、「世界で最も学校が危険な国」などと訴える声が議会で上がった。
しかし銃問題はきまって、共和党民主党の先鋭的な争点にされ、紛糾の末に進展をみなかった。国民の安全そのものの問題が、分断政治の中で翻弄(ほんろう)されてきた面は否めない。
もはや同じ愚は許されない。殺傷力の高い銃の販売禁止など、世論の多くが支持する施策から取り組むべきだ。学校に警備員や金属探知機を置くといった対応が必要な場合もあろう。
めざすべきは、銃が当たり前に存在する社会から脱却することだ。教員に応戦のための武装を推奨するような国は、とても正常とはいえない。

 週のはじめに考える 真実見極める目を - 東京新聞(2018年2月25日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018022502000138.html
https://megalodon.jp/2018-0225-1040-43/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2018022502000138.html

アウシュビッツ収容所解放から七十三年。老いた生存者らは排外主義の復活を憂えている。真実を見極めデマに惑わされまい。今、必要な教訓でしょう。
ナチスポーランド南部に設置しユダヤ人らを虐殺した収容所がソ連軍によって解放されてから、先月二十七日で七十三年がたちました。区切りのいい節目の年ではないが、跡地の博物館やドイツでは、ホロコーストユダヤ人大虐殺)の犠牲者に対する追悼行事が開かれました。
国際軍事法廷ニュルンベルク裁判などでナチスの犯罪が裁かれ、アウシュビッツは悪の象徴として世界中に知られていますが、その存在は、すんなりと受け入れられてきたわけではありません。
アウシュビッツ巡る裁判
昨年公開された英米合作映画「否定と肯定」は、一九九六年、英国の男性歴史家アービング氏をホロコースト否定論者と批判したユダヤ人女性歴史家リップシュタット氏が、逆に名誉毀損(きそん)で訴えられた実話をもとにしています。
アービング氏は在野の研究者。第二次大戦に関する著書を続々と出版し、ガス室などによるホロコーストを否定、ネオナチらの支持を得ていました。
英国の裁判では、訴えられた側に立証責任がありますが、弁護団はリップシュタット氏に発言させず、ホロコースト生存者にも証言させませんでした。
双方の主張を同じ土俵に乗せるのではなく、アービング氏の虚偽を徹底的に追及する戦術です。
収容所には毒ガス「チクロンB」を投げ入れる穴は存在せず、ガス室はなかった−との主張に対しては、米軍が撮影した収容所の航空写真を証拠に、屋根に円柱状の穴があったと反論した。
アービング氏の日記や講演から「黒人クリケット選手に吐き気がする」などの人種差別的発言や姿勢を暴き出し、ホロコースト否定につながったとも指摘した。
二〇〇〇年に下された判決ではリップシュタット氏が勝訴し、アービング氏の上訴も退けられて確定しました。
ガス室は証拠隠滅を図るナチスによって破壊され遺体は焼却され、ホロコーストの真実の解明には困難も多くありました。
◆ドイツも損なううそ
当初、収容所を解放したソ連の調査でアウシュビッツの犠牲者数は約四百万人とされたが、ポーランドは冷戦後、移送記録などをもとに、確認できた犠牲者は百十万人程度と修正しました。
しかし、南京事件のように死者数を巡る論争はなく、ホロコーストの責任を認め過ちを繰り返すまいと誓うドイツの姿勢は一貫しています。ホロコーストの本質は数ではない、とのコンセンサスが出来上がっているのでしょう。
そんなドイツにも、ホロコーストを否定する女性(89)がいます。本紙ベルリン支局の垣見洋樹記者によると、空襲や戦後の追放などドイツ人の被害を強調します。民衆扇動罪で有罪判決を受けましたが、主張はユーチューブで広がっているそうです。
メルケル独首相はアウシュビッツ解放記念日の声明で「反ユダヤ主義、外国人への反感や憎悪は今再び、日常茶飯事となっている」と警告しました。殺到する難民や欧州で相次いだテロにドイツの寛容も揺らいでいます。
流れに乗り、「ドイツのための選択肢」が連邦議会(下院)で第三党に躍進しました。ベルリンのホロコースト慰霊碑を「恥」と評した幹部を除名しなかった極右的政党が広く受け入れられたことは、ドイツ社会の変質さえ予感させます。
アウシュビッツのうそ」を厳しく戒めてきたドイツをさえむしばむフェイクニュース(偽ニュース)や客観性を重視しないポスト真実は、差別感情や対立をあおりながら世界にまん延しています。
欧州連合(EU)離脱の是非を問うた英国民投票では「EUに巨額の金を支払っている」「移民が社会保障を食い物にしている」などの虚説が唱えられた。
トランプ米大統領は「地球温暖化はでっち上げ」と言い切り、具体的脅威がないのにイスラム圏からの入国を禁じた。
日本のネット上にも、差別や憎悪に満ちた言説が飛び交うようになり、判断材料にされます。
◆英国では後悔も
国民投票で、EU離脱を支持し、「だまされた」と後悔する人も多かったといいます。
来年三月に期限を切られた離脱交渉は容易ではなく、取り決めがまとまらないまま、英国が国際的に孤立し漂流してしまう不安も日に日に強まっています。
今、世界が必要とするのは、もっともらしい主張の虚偽を見抜くこと−アウシュビッツから学ぶべき教訓はまだまだ多いのです。

占領期の獄中日記、出版 「朝鮮戦争反対」ビラまいて逮捕 - 朝日新聞(2018年2月24日)

https://www.asahi.com/articles/DA3S13375649.html
http://archive.today/2018.02.25-010208/https://www.asahi.com/articles/DA3S13375649.html

占領期、朝鮮戦争反対のビラをまいて逮捕され、1年2カ月余の獄中生活を送った大学生の日記が今月、刊行された。「京大生 小野君の占領期獄中日記」(京大学術出版会)。戦後ながら言論の自由が保障されないなか、精いっぱい自分で考え行動した青年の姿が伝わってくる。

京大生・小野君の占領期獄中日記

京大生・小野君の占領期獄中日記

関連サイト)
『京大生小野君の占領期獄中日記』を戴いた - @shinjyugakuさん(2018年2月3日)
http://blog.goo.ne.jp/toyama0811/e/0d1442450cba1dbfbc25cf0dff124b6d

小野君とは、中国近代史研究の大家である小野信爾教授のことである。朝鮮戦争に対し、「反戦ビラ」を配布し、米軍占領当局の主権下、投獄されたその獄中日記である。京都大学学術出版会から公刊された立派な戦後思想史の史料であり、歴史の証言である。京都大学が立派なのは、学生の運動も有り、当局が小野さんの学籍を守ったことである。当局は、自主退学を強くもとめたが、運動により、刑期満了後、復学され、著名な歴史研究者となられた。いまや、朝鮮戦争は、北朝鮮からの策動であると歴史学は証明している。ただ、朝鮮戦争はいまなお北東アジアにおける未解決問題の基礎にあり、アジア連帯の面から小野君の戦いは、畏敬するべき先駆者であったことも確かである。

僕は京大との関係では、小野信爾派ではなく、どちらかといえば、堀川哲男派である。しかし、小野さんは折に触れ、厳しい助言と深い慈愛で接して下さり、このたびも献本を戴いた。小野さんは、徹底した反米帝国主義の視点と親中国主義を貫かれたが、その信念と体験とは本物である。中国共産党には、絶大な信頼を寄せられている。これは、終生貫かれると思われる。小野さんの学風は、厳しく、徹底した文献史料を丁寧に史料批判を重ねて組み立てるもので、そこから思想性の発露を禁欲しながら、重厚な論を構築される方である。

小野さんの気持ち、<歴史家が後輩の歴史家に歴史研究の対象にされる>のは、実は居心地の悪い話である。獄中日記は、これからゆっくりと拝読することにする。戦後史の掘り起こしにおいて、宇野田尚哉教授(大阪大学)が中心となり、獄中日記を一次史料として、戦後日本人のアジア連帯の思想史が、アカデミズムのなかで市民権を得ることは、日本の将来にも有意義である。日本の有名大学は、大学史料館を充実させており、その成果も本書の背後にある好ましい傾向を後押ししている。この点につき、付記しておく。

関連記事)
ビラ禁止看板 偽りあった 弁護士「法的根拠は?」→自治体撤去相次ぐ - 東京新聞(2018年2月23日)
http://d.hatena.ne.jp/kodomo-hou21/20180224#p2