佐賀県と市長会、町村会が社会保障政策や公共事業の負担金、権限移譲などについて協議する「県・市町行政調整会議」(仮称)が10月、発足する。地域主権時代に沿った県と市町の役割を分担するため、対等な立場で協議する。3者の枠組みで公式な協議機関を設けるのは初めて。
 メンバーは県が知事、副知事と関係する本部長数人、市長会と町村会は各正副会長と役員の各3人で、10人程度で構成する。座長は初回会合で互選する予定。
 会議の議題としては、県の公共事業に伴う関係市町の負担金割合の決め方、県から市町への権限移譲などを想定。各市町で運営する国民健康保険の統合なども協議する見通し。知事が各会長の同意を得て開くほか、市町からも開催を請求できるようにする。会議は原則公開とし、開催頻度は初会合で決める。事務局は県市町村課に置く。県と市町のトップ同士の意見交換の場はこれまで知事ら県幹部と20市町長会議や市長会の要望活動など年1、2回で、市町が要望する形が多かった。事前に政策調整する常設の場はなかった。
 政府は地域主権改革関連3法案の一つとして国と地方の協議の場設置法案の早期成立を目指している。県版「協議の場」となる調整会議だが、条例化はしない方針。3者は合意結果を「尊重する」と位置づけ、結果について各議会の議論を妨げないよう配慮する。

本記事では,佐賀県と同県内の市長会,町村会により,「県・市町行政調整会議」(仮称)の設置の取組を紹介.
2008年3月8日付同年4月24日付同年8月22日付同年11月2日付同年12月13日付2009年1月12日付同年3月8日付同年4月16日付同年8月30日付同年12月9日付の各本備忘録にて記録した「条例による事務処理」制度を主たる対象とした,市町村・都道府県間での関係は,本備忘録に止まらない,下名の最大の関心事の一つ.同県の取組もまた,要経過観察.
下名の関心は,市町村と都道府県間での協議(交渉)構造.例えば,両主体間での協議において,各市・町と県いう個々別々での交渉主体によると,各主体間の意思を踏まえた協議が図ることが可能とはなるものの,結果的には,2008年3月8日付の本備忘録にて触れた,いわゆる「まだら分権」状態に至る蓋然性も低からず生じることとなる.加えて,複数の交渉主体が置かれることにより,県側が一括的に移行したい事項に関しても,「拒否権」*1が提示され,そのまだら度は拡大することにもなり得る.そのため,各市・町の「単一性」*2を図るべく,交渉側を一元化する路線も一つ.そのため,県内での市長会,町村会が交渉主体となり,交渉が図られる手続に関しては,個々の市町村が協議(交渉)主体となる手続きよりも,かねてより比較的に汎用されてきた手続となる.
ただし,このような協議(交渉)主体の一元化の路線に対しては,「多様性を求める分権改革を指向しながら」「一律性を求める」*3というディレンマに直面することにもなり,また,市・町の「多様性」からは,各県内での市長会,町村会といえども,意見の一致を至ることも,以前に比すれば,各「市町村が断る」*4により,都道府県との交渉の前段階での合意形成が困難となり,都道府県との協議に至る段階では,その合意可能な範囲(「ウイン・セット」でしょうか)は極めて限定されることも考えられる.
下名個人は,市町村と都道府県間は,理論的,実際的な双方の側面で興味深い事案と観察し,考えてはいるものの,分析が限られており,悲しい限り.ここ数年は,自治体間での協議(交渉)の淵源への関心からも,庁議制度を中心に,自治体機構内部での協議への観察と視点に重きを置いてきたものの,そろそろまた,自治体間での協議(交渉)についても,少しまとめて書いてみたいなあ.

*1:ジョージ・ツェベリス『拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか』(早稲田大学出版会,2009年)25頁

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

拒否権プレイヤー 政治制度はいかに作動するか

*2: アレグザンダー・ハミルトン, ジョン・ジェイ,ジェイムズ・マディソン,『ザ・フェデラリスト』(岩波書店,1999年)316頁(折に触れて開く書籍の1つですが,昨日プールの往復に歩きながら拝読しておりました,第70編で展開されている「行政部複数制」に対する「反対論」は,種々考えさせられました)

ザ・フェデラリスト (岩波文庫)

ザ・フェデラリスト (岩波文庫)

*3:千葉実「都道府県から市町村への権限移譲(事務処理特例制度)の現状とこれから」『Jurist』No.1407,2010.9.15,130頁

Jurist(ジュリスト)2010年 9/15号 [雑誌]

Jurist(ジュリスト)2010年 9/15号 [雑誌]

*4:大石貴司「都道府県と市町村の関係の制度と課題―権限移譲を中心に」前掲注4・所収・134頁